「私も友だちがないんだって話をした。傷の舐め合いみたいなもんだったなあーって今では思うけど」
「そいつもいじめられてたの?」
「うん、ちゃんと聞いてないけど、そんな感じだった」
うつろな、泣きはらしたような目と、少し汚れた顔。殴られたような傷はなかったけれど、泥だらけだった顔を簡単に洗ったような。
彼を慰めたかったのか。
もしくは私は彼ほどひどくないと自分を慰めるためだったのか。
「その子に、言われたの。"きみみたいになりたい"って。そう言ってくれたから……私は立っていられた」
彼の言葉を、に課せた。
その言葉に恥じない自分でいたいと強く思った。
——『きみは強いね』
間違ってない。いじめようとした友だちに、おかしいと言っただけ。それだけだ。
彼の言葉にそんな自信を抱いた。
「だけど」
そんな気持ちは、木っ端微塵になってしまった。
「もうすぐクラス替えだって思ってた頃。クラスメイトの女の子と、ちょっとぶつかったの。体育の時間に。そのときにその子が膝を擦りむいて、みんなに責められた」
大和くんはなにも言わずに、私を見つめる。
窓ガラスに映った彼の視線に気づかないふりをして話を続けた。
「そのときに先生がやってきて、どうしたんだってなるじゃない? ああ、これでいじめが終わるんだって思った。けど」
——『輝ちゃんが、いじめた』
「私がいじめてたことにされた」
みんな知っているはずだった。
私が無視されていたこと。体育の授業でぶつかったのはわざとじゃなかったこと。
それでも、結局多勢に無勢だ。私一人が否定したところで信じてもらえるはずはなかった。いじめたほうが否定するのは当たり前のことだった。
「親まで呼び出されちゃった」
その言葉と同時に、電車が大きく揺れて駅に到着した。
ぐらりと揺れてからドアが左右に開く。私たちは顔を見合わせてからなにも言わずに並んで降りた。
ついさっきまでまだ空はくすんだ藍色だったのに、真っ黒に染まっていて現実味がないような、不思議な感覚になる。
こんな時間に学校に向かっているからかな。
改札を通りすぎてからちらりと大和くんを見上げると、いつから見ていたのか私を見つめる視線とぶつかった。
「そんな顔すんなよ。別に俺は疑ってねえよ」
「……っ」
どう、して。
そう思うと同時に、瞳いっぱいに涙が滲んで視界がぐにゃりと歪んだ。
どうして、私がずっと……掛けて欲しかった言葉がわかったの。