「さっきさ、大和くん、私が本当にいじめられてたのかって言ったじゃない?」


 7時前に、店を出てふたりで再び学校に向かった。
 電車に乗ってなんとなく話し始めると、一瞬なんのことかわからなかった大和くんは少し間をあけてから「ああ」と言う。

 ほんとは、まだ言うのが怖い。
 だって、誰も信じてくれなかった。

 でも、今ここで口にすることから逃げたら、踏み出した意味がなくなってしまう。踏み出したからこそこうして大和くんと近づけた。

 そんな自分を、私は好きだと、思いたい。


「いじめられてたけど、そんなのはどうってことなかったっていうのはホント」


 突然無視された。だけどそれだけだった。
 誰も話をしてくれなかっただけ。ひとりきりで過ごしていただけ。だけどそんなの別に構わなかった。

 だって私は自分が悪いことをしたとは思えなかった。


「寂しかったけど、私は間違ってないって思ってた。無視されたって、耐えられた。逆に、無視とかいじめとか嫌いだったし、そんなことする人となんて仲良くしなくたって!って思うくらい」

「へえ」

「って言っても、人に背中を押してもらったからっていうのもあるんだけどね。それもあって、あんまり気にしてなかったんだ。いや、意地になってただけかもしれないけど」


 へへ、と笑うと、大和くんは少し困ったような笑みを見せる。


「学校帰りに、たまたま……ひとりの男の子にあったの。なんとなく、いじめられているっぽかった。私から、声を掛けたの。いくつくらいだろう…私よりも見た目は年下みたいだったけど、話すと大人っぽかった」


 声をかけた理由は今でもよくわからない。
 学校帰り、すぐに家に帰りたくなくて、ぶらぶらとひとりで散歩しているとき。

 みんなに無視されるようになって1ヶ月ぐらいのころ。

 まだ、寂しさを抱いていたころだ。

 どのくらい歩いているかわからなかったから、多分隣の市に入っていたと思う。そこの公園にいたひとりの、かわいい顔をした男の子。ブランコをゆらゆらと揺らしながそこでなにかを見つめていたっけ。

 可愛らしい顔立ちなのに、表情は固く、険しかった。

 だから、声をかけてしまったんだろうと思う。