言ってしまったほうが楽になる。
 だけど、言ってしまうことで、また、信じてもらえなかったら、悲しい。


「お前、なんでそんなに、言葉を選ぶの?」


 無言で食べていると、大和くんがじっと私を見て呟いた。気が付かなかっただけで、ずっと見られていたんじゃないと思う。

 大和くんの視線に思考がストップしてしまって、ワンテンポ遅れて頭のなかで聞かれた言葉を反芻した。


「そう、かな」

「当たり障りなく受け答えするよな、お前。自分で壁作ってる感じ。振る舞いも。人の意見に流されるでもなく、かといって自分の気持ちを貫き通すわけでもねえし」


 胸が、ズキリと痛む。
 顔の筋肉が引きつって、声を発することもできなかった。


 知ってる。わかってるんだ、本当は。

 今までの自分の思いを貫き通せない弱い部分。だけど、その思いを全て捨て去ることもできないで、どっちつかずな態度で毎日を過ごしていた。

 学校は楽しかった。
 中学時代に比べたら、雲泥の差だ。友達もたくさんできた。学校帰りに遊んで笑って、過ごしている。


 今まで嫌だと思っていたこと、許せないと感じていた自分を殻に閉じ込めて。


 そんな日常は、ぬるま湯に浸かっているみたいに楽で、心地よかった。

 だけど、そんな自分が嫌いで気持ち悪くて仕方なかったん。

 それを、大和くんに気づかれたこと、私と同じように私を見ていたんじゃないかと思うと、ひどく恥ずかしい。


「……でも、挨拶されんのは、悪くねえよな」


 微かに笑ったような気がして顔を上げると、大和くんは目を細めて私を見ていた。ひどく優しくて、温かいそれに、胸がほわっと、暖かくなる。


「お前だけだったからな、声かけてくんの」


 誰にも興味がなさそうな彼が、私を、そんなふうに覚えていてくれたことがすごく、嬉しい。


「大和くん、が。返事してくれるから……」

「無視なんてしねえよ」


 ふっと笑って、再びパスタをくるくるっとフォークに巻きつける。
 左手はそっと、プレートに添えられている。

 綺麗な手だなあ。食べ方も、綺麗だ。