学校を出て、ふたりで駅前の店に入った。

 安いパスタメインのチェーン店。こういうところに男の子とふたりで来るなんて初めてだから、妙に落ち着かない。

 そんな気持ちを隠すように、注文してすぐに「家に電話してくる」と言って席を立った。
 店を出て、あまり音のうるさくない場所で通話ボタンを押す。


「今日、友達とご飯食べて帰るから遅くなる」

『遅くなるって……何時ごろになるの?』


 お母さんに電話をすると、うろたえた様子で質問をされた。

 もちろんそう言われるだろうことは予想していたから「わかんないけど、11時とかかな」と適当に返す。

 いつも遊んで帰るよりも遅い時間だ。それに対してなにか言われるかなと思った。けれど同時に、なにも言われないだろうなとも、思った。


『そう……気をつけてね。連絡、すぐしてね』


 ほら、やっぱり。
 苦笑をこぼしながら「うん」と返事をする。


『そういえば』


 電話を切ろうとすると、少しだけ言いにくそうに、けれど今思い出したかのように話し始めた。


『朝……翔子ちゃんが、連絡ほしい、って』

「……じゃあ、また帰るときに連絡する」


 聞こえてきた言葉に胸が締め付けられたけれど、それを隠しながら、話を無視して電話を終わらせた。


 なんで、いまさら。
 この前駅であったから、急に思い出して連絡をしてきたんだろうか。春に見かけたときは無視したくせに。

 そもそもなんのために電話なんか。
 なにをしたいんだかわかんない。なにを話すっていうのだろう。

 話すことなんてなにもない。話したいこともないし、話されたいことだってない。このまま無視していたら、すぐに電話なんてしてこなくなるくらいのものに違いない。


 ずっと、一緒にいたのに……ちょっとしたことでみんなと同じように私を無視した翔子だもの。
 理由を聞きもせず、みんなの意見に同意した。


「それなのに……」


 小さく呟いてから、ため息を吐いて、席に戻ろうとくるりと向きを変えた。
 あんまり店の外にいたままだと、ひとり残された大和くんは居心地が悪いだろう。