だからこそ、疑問が浮かぶ。
 いじめていることを否定もせず、最低だという言葉もすんなりと受け入れるこの人は……。


「なんで、あの放送を聞いて集まろうと思ったんですか……?」


 問いかけた言葉に、先輩は視線を動かしもしなかった。
 まるで、声なんて聞こえなかったかのように、平然と歩いている。
 っていうか、無視……された?
 なんか気に障ることを口にした!?


「ちょっと1年をいじめないでよぉー」


 フォローするかのように、蒔田先輩が私の肩を抱いて後ろから抗議してくれる。


「部活行くから」

「うっわー、都合の悪いことには答えないとか、男らしくなぁい」


 去っていく先輩の背中に蒔田先輩が叫んで「ね?」と私に同意を求める。

 その笑顔を見て、思わず私も笑顔になってしまった。

 
 誰に対しても態度を変えない、あけすけな先輩の笑顔。
 ここ数日で顔見知りになっただけの関係だけれど、なんだか好きだなあ、と思った。

 面倒見のいいお姉さんって感じだ。
 一見自由な感じに見えるのに、いつも私を気遣ってくれている。

 榊先輩が言っていたように……なんでも口にするから怒る人や傷つく人もいるかもしれない。冗談がバカにしているように感じる人もいるかも。


 でも。
 私、先輩のこと、好きだなあ。


「んじゃ、あたし、一旦帰るから、またね」

「あ、はい、さようなら」


 ぽんっと肩を叩いてかけだしていく先輩に手を振った。
 少し離れた場所で、後ろを振り返るように走りながら手を振り返してくれた。


「……蒔田先輩、いいなあ、好きだなあ、あこがれるなあ」

「なんだそれ」

「だって、いつも話しかけてきてくれるし、図書室で会った人たちみたいに偉そうじゃないし」


 確かにな、とつぶやいてから大和くんは先輩の背中を見つめた。


「あの人みたいな奴がいたら、あいつは逃げなかったかもな」


 あいつ、というのが昨日話してくれた友達のことだとわかるのに、ほんの少し時間がかかった。

 わかったところでどう答えていいのかわからず黙っていたけれど、彼は返事なんて求めてなかったのだろう。そのまま「行くか」と歩き出した。


「そういやお前どうする?」

「ん?」

「一旦帰るか? 夜までここにいるか?」


 そう言われて確かにどうしようかと悩む。

 家に帰りたくないし、一度帰るとまた出かけるのに説明するのも面倒だなあ。
 かといって、夜までここにいたら……さすがに両親も心配するだろう。友だちの家とか適当な事を伝えといたらいいかな。


 どっちにしたって心配はするだろう。
 だったらどっちでもいいような気もする。