「……さすがだったね」
「なにが」
教室を出て、隣の大和くんに呟いた。
「鷲尾先輩。テキパキみんなの意見をまとめてさあ。私だったらパニックになりそう」
「あいつ、頭の回転いいんだよ。オレらの年の外部入学テストで1番だったからな」
「そ、そうなんですか」
そばにいた浜岸先輩が、会話に混ざってきて驚きながら返事をした。
こんなふうに話をするの初めてで緊張する。っていうかいつも怒っているイメージしかなかった。
意外に気さくに話しかけてくれるんだ。
さっきも私が声を上げたら笑いながら、賛同してくれた。
「そのかわり運動音痴。なにやらせてもへったくそ」
「それでいじめ? やだぁださいー」
「うっせーなあ、お前。お前だってそういう奴ら見下してるんだろ? 誰だっけ? 2年の栽培部の男をキープしてるんだっけ?」
「……はあ?」
混ざってきた蒔田先輩と浜岸先輩が話を進めだして、ついていけなくなった。
でも、蒔田先輩が、珍しく表情を固くしたのはわかる。
いつもにこにこしているのに、顔には嫌悪感がにじみ出ていた。
それを見て、さすがに浜岸先輩もたじたじになる。
「ウワサで聞いただけだからしらねえけど!」
「センパイはなんで鷲尾センパイいじめてたんすか」
慌てて言い訳をする浜岸先輩に、大和くんが問いかけた。
っていうか、理由なんて聞いたところであるんだろうか。気に入らないとか、楽しいとか、いじめてたつもりはないとか、そういうこと言い出すんじゃないだろうか。
じゃないと毎朝靴箱に呼び出したりしないだろう。
「……別に。うざいから」
やっぱり。
「はじめは……多分外部の奴が一番成績がいいってので、頭のいい奴らが嫌味を言い出してたんじゃねえかな。オレはそれはどうでもいいし、しらねえ」
「外部ってだけで内部より格下に見る子っているよねえ。みんなじゃないけど、めんどくさいったら」
「そんな感じだな。で、それでも平然としてっから、なに考えてんのかなーって声かけた、ような気がする。なんかそのときのすました感じがすげえ腹たったんだよなあー。で、その後の体育の時間にアイツのせいで俺が脚挫いて試合出れなくなった」
今はどうってことねえ、ただの捻挫だけど。と言葉を付け足して右足首をぐるぐると回してみせた。
「その、腹いせ」
「謝ってもらったんでしょー?」
「言ってたんじゃねえの? 覚えてねえ」
根に持つタイプよね、と蒔田先輩が耳打ちをしてきて苦笑しか返せなかった。
「惰性で続けてたみたいなもんだ。鬱憤もはらせるしな」
「最低っすね」
「……まあな」
本当に最低。
大和くんの言葉に心の中で頷きながら、なにを考えているのかわからない浜岸先輩の顔を見つめた。