「非常階段の……下で。一瞬だったんで見間違いかなって思ったんですけど。さっと、校舎から出て行くような」

「じゃあ、逃げた後、かな。どんな人かとか見えなかった?」

「いや、ほんと一瞬で……」


 あのとき、気になったのだからもうちょっとちゃんと見ておけばよかった。言われてみれば、生徒指導室から非常階段を使って出て行ったんだろう。


「そうか……でも、迷いなく校舎をうろついている感じを見ると、やっぱり生徒だろうな……」

「でも、なんのためにそんなことを?」


 考え込む鷲尾先輩をみて、誰がっていうことよりも、どうして、のほうが気になってきた。


「なんか目的があったんだろうな。指導室をめちゃくちゃにすることじゃない目的が」

「でも、そもそもなんで指導室?」


 大和くんに問いかける。


「あそこだけが入れる教室だからじゃねえの?」

「あ、そっか」

「……そうだったら、いいんだけど」


 会長が独り言のようにつぶやいた。


「どーいうことー? 鍵ないのに入れるの?」

「あそこは入るのに鍵はいらないんだよ。 まあ、あそこに入ったことある奴しか知らないか。あそこは生徒指導室だから。逃げないように内側からは鍵じゃないと開かないんだ。代わりに外は、誰でも開けられる」

「へえー」


 知らないのは私だけかと思ったけれど、蒔田先輩も知らなかったらしい。
 感心する声はほかにもあった。鷲尾先輩や、七瀬先輩。それから柿本さんも。確かに生徒指導室とは無縁そうだ。

 知っていたのは会長と浜岸先輩と大和くんだけ。


「浜岸くん、知ってたんだね」

「……顧問によく呼び出されるからな。部室じゃ目に付くって理由で」


 鷲尾先輩が驚いた顔で声をかけると、目を合わさずに答えた。

 部活でも使われたりするんだ。
 なんかこんな場所に呼び出されて先生と話をするとか、絶対ろくでもない内容だとしか思えないんだけど。


「じゃあ、それを知ってた人ってことよね。やっぱり……」

「違うっつってんだろ!」


 浜岸先輩じゃないにしても、そのことを知っていた人っていうのは間違いないだろう。