「そしたら、その、誰かが放送室を横切ったような気がして……みんなの誰かが来てくれたんじゃないかって思って、出てみたんだ。でも、誰もいなくて、階段を誰かが歩く音が聞こえたから、なんとなく追いかけたんだ」
「ちょうど、その階段でアタシとその人がぶつかったのよ。図書室によって本を借りてから、あそこじゃ落ち着いて読めないから教室でずっとひとりでいたのよ。その帰り。階段を歩いていたら急にぶつかって、そのまま落ちたの」
「顔は見えなかったのかよ」
「踊り場で急に出てきてぶつかったっていうのに、そのまま上っていったのよ。私は階段を落ちる羽目になるし、相手なんか見えるはずないでしょ」
ふん、と偉そうにそう言って、舌打ちをした浜岸先輩から顔をそらした。
「榊さんが倒れているのをぼくが見つけて、おかしいと思って追いかけたんだ。そしたら……指導室で大きな音が聞こえて……入った瞬間に椅子が飛んできた」
「うわーいたそー」
蒔田先輩が顔をしかめる。
多分私の顔も同じだっただろう。顔があれだけ赤くなっているのも納得だ。
「顔は、見えなかった。ぼくの姿に驚いたのか、そのまますぐに走って逃げたんだ。もう廊下も電気はついてなかったし、その人も、黒い格好をしていたから、よくわからなかった。でも……」
「でも?」
「独り言をずっと言ってた。なんで人がいるんだ、こんなはずじゃなかったのに、仕方がない、今日は、って」
今日は……?
今日は諦めて帰ろうってことだろうか。
だとすると。
多分みんな同じことを思ったんだろう。真剣な顔つきで、部屋の中にいるみんなが視線をぐるりと動かした。
——きっと、その人は、再び学校にやってくる。
榊先輩は疑っているけれど、多分その人は浜岸先輩じゃないんだろう。立森先輩は疑っているようには見えない。
「……そういえば……昨日、帰るときに人影見たけど、その人かな」
「そういえばお前そんなこと言ったっけ?」
私がぽつりとつぶやくと、大和くんも昨日のことを思い出すように視線を上に向けながら言った。
「どこで?」
鷲尾先輩の問いかけに、「えっと」と慌ててちゃんと言葉にして説明した。