「こいつら、オレを疑うんだよ」

「だってきみはその時間まだ学校にいたんだろ!?」

「部活だったんだからしゃーねーだろ! だったら顧問にでも聞けよ」

「きみだったら顧問も言いくるめられるんじゃないの?」


 話についていけない。
 どうしたものかとオロオロしていたけれど、それは私だけじゃなく他のみんな同じような感じだった。


「あんたもこの先輩を疑ってんの?」


 大和くんに話しかけられた鷲尾先輩は、びくりと体をふるわせた。
 ふたりの先輩をちらりと見てから、小さな声で「……わからない」と答えてうつむく。


「どんな人だったのぉー? っていうか状況がよくわかんないんだけどぉ」

「こいつの言うとおりだ! 人を呼びだして勝手に犯人扱いしやがって!」

「こいつって言わないでよ! 日頃の行いが悪いんだからしかたないじゃない、あんたの場合はー」


 ああ、またケンカだ。
 あっちが終わればこっちがケンカ。ケンカグループだ。

 昨日あんなことがあったから余計に、みんなギスギスしているような気がする。後ろにいる会長も今日はあまり口を出さないし。

 でもみんな、なんで今日も学校にいるんだろう……。
 日曜日なのに。


「ちょ、ちょっと、話するよ……!」


 ふたりの間に割って入るようにして、立森先輩が珍しく声を張り上げた。口元が切れているらしく、その後すぐに顔をしかめて「えっと」とゆっくりと話し始める。


「昨日、多分……7時くらいかな。ぼく、まだ放送室に残ってたんだ。その……昨日、みんながバラバラになっちゃったから、どうにかしたくて、考えてたんだ……」


 7時、といえば、私と大和くんもまだ学校にいた頃だ。
 それまで先輩はずっとひとりで考えていたんだ……。

 確かに先輩はあんまり今までもみんなのケンカに混ざるようなことはなかった。いつも間に入って止めていたような気がする。
 浜岸先輩が声をあらげたとき、いつも声をかけるのは先輩だった。


 ころっとした体型と、いつもきょろきょろ落ち着かない様子ではある。会長を除いてひとりだけ3年だけれど、あんまり先輩って感じもない。


 自信なさげな雰囲気だけれど、こうしてみると誰よりも優しくて、だれよりも勇気がある人なのかもしれないと思える。