「でも、きっと来ないと思うよー大和くんは」

「確かに。めんどくさいもんねー」


 わざわざ休みの日に学校に来るとは、正直思えない。来てくれたら助かるけど。私もサボれるものならサボって家でごろごろしていたいけど……めちゃくちゃ怒られるだろうしなあ。

 この学校、規則とかにもすっごい厳しいんだもん。掃除サボるだけで生徒指導室に呼ばれたって言ってたっけ。そんなの絶対やだ。

 でも、彼は委員会をサボっても、誰にもなにも言われないだろう。

 先生ですら、彼に注意したり話しかけたりするのを避けている。成績優秀だってこともあるんだろう。

 ……私も彼みたいに強かったら、みんながなにも言えないような立場だったら、なにか違っていたのかな。

 少なくとも、以前は自分のことを、なんでもできるくらい強いと、なににも負けないと思っていたのに。 


「さ、教室入って勉強しよ、べんきょー!」

「お、やる気じゃん輝」


 気持ちが沈んでしまったこと気づいて無理やり明るい声を出す。


「でも、あんまり話さないほうがいいぞ」


 背後からぼつりと飯山くんが呟いた。心配してくれているのかなんなのか、いつもより真面目な口調に一瞬どう答えていいのかわからなくなり、少し間を置いてから「そうだね」と曖昧な返事だけをした。

 彼がそんなことを言うなんて珍しいな。

 


 3階に上がって、丁度真ん中あたりのC組が私と茗子の教室。

 廊下は最後の追い込みのように教科書を手にしつつも友達と話している学生や、なにも気にしないのかゲラゲラと笑っている学生がたくさんいた。

 目の前でひとりの女の子が歩いていて、ドアから突然飛び出してきたひとりの女の子とぶつかる。

 その瞬間、彼女の鞄が廊下に落ちて、中からいくつかの本と筆箱、メモ帳が散らばった。


「今日終わったらカラオケの前になんか食べに行こうよ」

「いいね」

「みんなも誘おうかー」


 楽しそうに話す茗子の一歩後ろを歩く。
 通り過ぎるときに、足元に落ちていたメモ帳を拾い上げて無言で女の子に渡した。

 同じクラスじゃないから名前はわかんないけど、ちょくちょく見かける気がする。
 黒髪のキレイな女の子。顔は……前髪がながくてよく見えない。

 まるで、自分を空気だと思っているかのように、そっと去っていった。