もうちょっと、話がしたい。
そばにいたい。
なにも語らなくていいから、並んでいたい。
自分がこんな気持を抱いてしまうのが、恥ずかしくなってくる。
これじゃまるで……。
そのとき。
ポケットに入れていた携帯が震えた気がして取り出した。
茗子かと思ったそれはお母さんからのもので、ちょっとほっとした。茗子からのメールだったら、今、私はなんて返事をすればいいのかわからない。
かといって、お母さんだからいいってわけでもない。
『遅いけど、どうしたの?』
そんな内容が目に入って、思わず「はあ」と溜息を落としてしまった。
「なにそんな憂鬱そうな顔してんの」
「……ちょっと……いや、お母さんからのメールで」
ごまかそうと思ったけれど、なんだか彼にはそんなことをしたくないなと思った。
「いじめのことがあってから……あんまり、いい関係じゃないんだよ、ね。なんとういうか、気を使われているっていうか」
「へえ」
「大和くんはさ、その、中学のときのこと、なにか言われた?」
うーんと首を捻って考えてから「おやじにめちゃくちゃ怒られた」と言った。
「なんでそんなことしたんだ、って。おかんは呆れてたけど……それだけじゃねえかな。俺は悪くねえって言い張ってたら諦めたようにため息つかれたけど……。ああ、『次は問題起こさないように戦え』って言われたかも」
それを聞いて思わず吹き出してしまった。
大和くんの両親っぽいなあって。
大和くんのことを信じているからなのも。
自信があるのがわかる。
誰かに文句言われても、避けられても、大和くんは大和くんだった。ひと目を気にすることもなかったし、堂々と過ごしていた。
ろくに話したことのない私も、大和くんのウワサを聞いて信じることが出来なかったのも、そんな大和くんを見ていたからかもしれない。
人の目を真っ直ぐに見る彼は、人のことを欺くような人には思えなかった。
そんなふうに家でも過ごしているんだろう。
だからきっと、家族にも信じてもらえているんだろう。
そんな家族だから、大和くんは大和くんらしく、立っていられるのかな。
「いいなあ……」
「そうか? 共働きで忙しいから問題起こされたくねえだけだろ」
「あはは。……でも、また問題起こしたって、きっと……”なんで”って、怒られるんだよね。私は……なにも言われなかった」