大和くんが身軽に柵を乗り越えて、非常階段に渡る。そしてゆっくりと下を確認しながら柵に登ったその瞬間、地面をなにかが横切るのが見えた。
「どうした」
じっと見続けていると、私の手を引いた大和くんが問いかけてきて、「あ、ごめん」と言いながら体重を彼の方に傾けて階段に足をつける。
「誰かいたような気がして。野良犬とかかな」
「見間違いじゃねえの?」
そう、かな。
もう一度影の見えた方に顔を向けたけれど、誰もいるようには見えなかった。
こんなに真っ暗だし、やっぱり見間違いかな。
大和くんは、私の見た人影なんてなかったものをしてなにも言わずに先を歩き始めた。
校内はあまり電気がついていなくて、気味が悪い。平日ならまだこの時間、部活動が終わった生徒がいたりする。人がいないだけで、真夜中みたいな気分になる。
まだ、かすかに空は明るいのに、それが余計に寂しさを増して感じる。
靴箱はもっと薄暗く、妙に緊張しながらローファーに履き替えた。
校門まで歩いていると、チラホラと人影が見えた。
部活で残っていた人たちだろうか。グラウンドにひとりたっている人は、なんとなく浜岸先輩のように見えた。
飯山くんも、浜岸先輩も、どうして人をいじめるんだろう。
友達も多くて、クラブでだって注目されている。見た目だってそこそこいい。なにも問題のない人だ。
そんな人がどうして、自分より下の人を作り出して楽しむんだろう。
……大和くんのせいにするのは、許せない。
だけど……どうしてそんなことをするんだろう。そんな気持ちのほうが大きい。
中学生までの私だったら、こんなふうに考えなかっただろう。
「駅まで行くんだよな、お前」
「あ、うん」
校門を出たところで、大和くんが振り返った。
自転車に乗ってないから大和くんも駅まで歩くんだろう。
……遅くまで一緒にいてよかった。今、こんな気分でひとりになるのは、嫌だ。
あたりが暗いから、一緒に帰ってくれるのかも。昨日は先にスタスタと歩いて行ってしまったのに、今日は同じペースで隣を歩いてくれている。
ぽつりぽつりと他愛無い会話をかわしながら隣に並んで駅まで向かう。
なんだかあっという間にたどり着いてしまいそうで、ほんの少し歩く速度を落とした。