「飯山はいじめてたって、みんなに好かれる明るいやつだからな。俺はもともと人付き合いはうまくなかったし、窓ガラス割ったのは本当だし」

「……茗子も、知ってる、の?」

「さあ? 知ってるんじゃねえの? 飯山と仲いいし」


 茗子は、なにを心配していたんだろう。
 本当のことを知ることを、心配していた? 本当は知らなかった? ううん、きっと、知っているはずだ。

 なんで、なんでそこまでして、大和くんを……。


「やましい人間ほど、意地になるんだよ」

「そん、なの、おかしい、よ」

「なに泣いてんの」

「だ、だって……」


 悔しさがこみ上げてきて、我慢していても涙が溢れる。

 私が泣くようなことじゃない。大和くんのほうがずっとずっと苦しいはず。なのに、止まらない。

 大和くんの切ない笑顔とか、知ってしまった事実に対する悔しさとか、いろんなものがぐちゃぐちゃに混ざって、気持ちが悪い。

 どうして、飯山くんは大和くんを悪者にしたの。
 なんでみんな、本当のことを口にしないの。
 ねえ、どうして……みんなちゃんと話してくれなかったの?

 茗子はいつも、どんな気持ちで私を心配しているようなことを言っていたの?




 ふたりでずっと、部室に篭っていた。
 掃除しなくちゃ、と思ったけれど、体が動かない。

 言葉をかわすことなく、ただじっと、時間が流れるのを眺めるように座っていた。


「……そろそろ帰らねえと、親心配するんじゃねえの?」


 大和くんがそう言って立ち上がった。
 ぼんやりしていた頭が、その声に少し晴れていく。


「そう、だね」

「今、7時」


 のそりと立ち上がって、大和くんを追いかけるように外に出る。
 あたりは真っ暗に染められていて、こんなにも長い間ぼーっとしていたことに驚いた。