「身体も小さくて、もちろん運動神経もそんなによくねえの。……だから、まあ、いじめっ子の格好の餌食ってわけだ」
その友達を思い出すように、どこか遠い目をして話し続けた。
彼の目には、その友達の姿が見えているのかもしれない。
「俺はこんな性格だから、そりゃヒーロー気取りでそいつを守ってたんだけど。ある日言われたんだよ。"もうやめてくれ"ってな」
「え?」
「人に意見を強く言えるような奴じゃないのに、俺を睨むように、涙を必死に耐えながら、血が出るんじゃねえかってくらい拳を握りしめて"もうボクに関わるのはやめてくれ"って。あとから知ったけど、俺が口を出すことで悪化してたんだってよ、いじめが」
笑っているけれど、泣いているみたいに見える。
目元がかすかに光って見えるのは……涙なんだろうか。
大和くんの気持ちが私の心に染みてきて、胸が苦しくなった。
どれだけその友達のことを好きだったのか。
どれほど傷ついたのか。
友達の男の子からすれば……確かに辛かったのかもしれない。だけど。
「で、そのまま転校してった」
その発言に、もしかして、という思いが浮かぶ。
私の顔をちらっと見た大和くんは、それを察したように「中1の話」と言った。
私が聞いたのは、"大和くんがいじめをしていて学校をやめさせた"ということ。
だけど……全く違うじゃない。むしろ、かばっていた方なんて。
なんで、そんなことが。
「担任に言っても、あいつは転校したの一点張り。あいつらがいじめたせいだって言っても、聞こえてねえみたいにスルーしやがんの。あいつらのほうが成績もいいし、運動神経もいいからなんだろうな」
「そ、んな……」
「会長も、あの男も、知ってたくせに、知らないふり。俺が追い詰めたって言われたよ。で、腹立って窓ガラス割りまくってやった」
はは、と乾いた笑い声が響いた。
そんな、事情だったなんて。
そう思えば、大和くんと会長の関係も、どうしてあんなに険悪なのかがわかる。
「ひどい……」
口にして、なんて陳腐な言葉なんだろうと思った。
だけど、それ以外に今の気持ちを言葉に出来なかった。
悔しくて、奥歯をぎゅうっと噛みしめる。