「ずるいのは分かってた……けど」


 大和くんの顔は見れなかった。
 見たら泣いてしまいそうだったから。


「人を傷つけていたなんて、考えてもなかった」



 どうすればよかっただろう。
 昔のように、彼女の前に立って、受け止めるべきだったのだろうか。

 でも、それも正解ではないことを、私は知っている。

 ……それを認めてくれたのは、あの子だけだった。


——『ぼくは、きみみたいな子に、たくさん助けてもらったんだ』


 あの子は、今、どこでなにをしているんだろう。


——『ぼくも、きみたちみたいに、戦おうと思うんだ』


 私と違って、きっと彼は今、戦っているだろう。
 そんな彼が今の私を見たら……どう思うだろう。


「人それぞれだろ」

「……どういう、こと?」


 いじめにどう対応するかってこと、かな。
 顔を上げて大和くんを見ると、珍しく机を眺めながら言葉を続ける。


「手助けを嬉しいと思うか、惨めと思うか」

「そう、なの、かな」

「同じことを俺がするのと、お前がするのも、同じにはならねえしな」


 言われてぼんやりと考えてみた。
 それは、なんとなくわかるような気がする。

 同じ台詞を口にしたって、私と大和くんでは人に与える印象って違うだろう。それは……言い方もあるかもしれないし、イメージもあるかもしれない。


「そう、思いたいだけだけど。でも、俺は……嬉しいと思ってた」


 大和くんには、歩み寄ってくれる人がいたんだ。
 どんな人だろう……。きっと、すごく、優しくて強い人なんだろう。大和くんがこんなふうにいう人。

 一瞬だけ口端を持ち上げた大和くんは、すぐに険しい顔になった。
 

「ただ、俺がしたときは、もうやめてくれって頼まれたな」

「なに、それ」


 意味がわからなくて大和くんを見つめると、苦笑を滲ませながら「そのまんまだよ」と言われた。


「昔、すっげーおとなしい奴がいたんだよ、クラスに。おとなしいけど、すげえ優しいやつで、話すと面白いところもあって、俺と正反対なのに、なんか仲よくなったんだ」


 私の知っている大和くんは、高校に入ってからの大和くんだけで、誰ともろくに話さないし、話しかけられることもなかった。

 一匹狼って言葉がよく似合う。

 だけど、その優しい友達と笑い合う大和くんは、不思議とすぐにイメージができた。