突然始まった蒔田先輩と榊先輩の口論を、部屋にいるみんなが黙って見つめていた。
「じゃあ、なんで蒔田さんみたいなかわいくて友達も多い人が、あの放送を聞いたからってやってきたのはなんでなの? いじめられてるはずもないし、成績だって運動神経だって、問題ないから先生たちに目を付けられていることもないでしょ?」
「……そ、れは」
「ほら、言えないんじゃない」
「なんでお前なんかに言わねえとなんねえんだよ!」
それをかばうかのように次は浜岸先輩が口にする。
「浜岸くんは、なんで来たんだよ」
「あ?」
「なんできみが来たんだよ! きみこそ僕らのような屈辱や不満、縁遠いじゃないか」
突然感情的になった鷲尾先輩に、浜岸先輩は眉間に皺を寄せた。
「僕らが……なんでこんなことをしようとしたのか……きみはよくわかってるだろう!? 毎日毎日……人目のある場所でたかられる僕がどんなことを思っていたか!」
「だったらあそこで文句言えよ! なにも言わずに俯いて言われるがままだったのはお前だろ!」
「言えるわけないだろ! 言ったら、逆らったら……! きみらは自分がどうするか、自分でよくわかってるだろう!?」
「できなかったのをオレらのせいにしてんじゃねえよ! 首謀者のくせに人任せに逃げてるのもお前じゃねえか! 結局お前が弱虫なだけだろ! 逆らうのが怖いとか言う前に、逆らってみせろよ!」
「きみみたいな……なんの不自由もない自由気ままに動けるやつに僕らの気持ちなんかわかるわけない!」
「わかんねーよ! 弱虫の気持ちなんか!」
どんどんヒートアップしていく口論に、もう誰も口を挟めなかった。さっきまで怒っていた榊先輩も、蒔田先輩も呆然とふたりを見つめている。
ど、どうしたらいいんだろう。
大和くんもなにもいわずにふたりを見つめたまま。なにを考えているのかわからない。
誰かが止めないといけない。
だけど、どうやって止めればいいのかわからない。
止めていいのかもわからない。