「言葉が通じないんだよ、すぐ力で押さえつけようとする奴は」

「んだと、てめ!」


 ガタガタっと大きな音を出して浜岸先輩が七瀬先輩に近づいた。本から視線を上げた先輩は、く、と喉を鳴らして「暴力かよ」と挑発するようなことを言う。


「結局ボクら以外のみんな、バカないじめっこだ」

「……ねぇ、その台詞、なんか納得できないんだけどどういうこと?」


 椅子に座ったままの蒔田先輩が、浜岸先輩を止めるかのようにつぶやいた。口調はいつものように甘ったるい。けれど、目が……とても冷たく、軽蔑しているみたいに鋭い。


「な、なにが」

「迷惑だってやつ。あの訳の分かんない放送で、あんたたちの場所探してやってきて、その台詞ってどうなのー? そんなこと言われる筋合いないんだけどぉ。しかもなに、いじめっこって。ひとくくりにしないでくれるー?」


 さすがの七瀬先輩も、たじたじになった。一生懸命動じていないように見せているのか、めがねを何度も触るけれどそれが返ってかっこわるい。


「……そういうところよ」


 代わりに間に入ったのは榊先輩。
 顎を少し持ち上げて、蒔田先輩を見下ろすような目つき。


「なにがぁ?」

「あなたもバカないじめっ子よ。偉そうな口調で押しつけてこないだけ。なれなれしい口調でなれなれしく話してくる分、あなたのほうがたちが悪い」

「あたしがいつ、榊さんをいじめたって? わかんないんだけど」


 蒔田先輩が……いじめとか、イメージできない。

 後輩の私にも気軽に話しかけてくれるし、偉そうな感じもないのに。見ている限り、みんなにもそんな感じだ。

 
「友達みたいに話しかけて、バカにするように笑ってるじゃない」

「ちょ、なにそれ。卑屈すぎるんじゃないのぉ? そんなことするならあの放送を聞いて探したりしないし」

「どうだか。バカにするためにすり寄ってきてるだけかもしれないじゃない」

「ちょっと、いい加減にしてよぉ。そんな悪趣味なことするわけないじゃん」


 さすがの蒔田先輩も、苦笑を見せた。
 まさかそんなふうに思われているなんて考えてもみなかったんだろう。