茗子の気持ちはありがたいけれど、今せっかく大和くんと話ができるようになったのに、……臆病な気持ちでそれを壊したくない。
もう、自分だけを守って、自分のことを嫌いになっていくのは、やめようって思ったじゃないか。
そのために、私は放送室のドアを自分で開けようってしたんだから。
それに。
茗子は、中学のときの友達と、一緒じゃない。
きっと話せばわかってくれる。
夜に、電話してみよう。私も、少し落ち着いてから。話すことをまとめてから。そして、茗子も夜だったら今と違った感じになっているかもしれない。
もしも、もしも。最悪の結末だったとしても。
同じことになるわけじゃない。それなら私は、前のように、戦えるはずだ。踏ん張れる。それで、いい。
「うん」
「なに?」
「なんでもない」
ひとり決心して頷くと、パンを頬張っていた大和くんが顔を上げた。
さっきよりも笑顔がうまく作れた私を見て、苦笑をこぼしながらまたご飯を食べる。
私も大和くんの買ってきてくれたおにぎりを手にして、体に詰め込んでいく。
「そう言えば、柿本さんって、知ってる?」
「知ってるもなにも、あいつも放送部だろ」
「そうだけど。どんな子かって意味で」
いつのまにかご飯を食べ終えていた大和くんは、紙パックのジュースを飲みながら首を傾げた。なにか思いだそうとしているのか、それとも意味が分からないのか。
「クラス一緒になったことはねえけど内部組だから、まあ、知ってるっちゃ知ってるかな。あいつ女子にすげえ嫌われてて、そういうのは目に付くし」
……確かに、そうかもしれない。
私も名前は知らなくても、柿本さんのことは知っていたし。あんまり深く考えないようにしていたけれど。
「あいつがどうかしたのか」
「んー、や、なんか、嫌われてる、のかな。避けられているというか」
話しかけてもあんまり反応ないし。
今日の図書室でも、なんか……余計なことしたのかなあ、とか。
「あいつはああいう奴なんじゃねえの? 話しかけても話さないし、どんくさいし、ちょっと挙動不審っつーか、コミュ障っつーか。だから目つけられてるんだろうな」
だからって、いじめられる理由にはならないのにな。
すごく綺麗な顔してるから、それも気に入らないのかな。
そんなの、ただの妬みじゃないか。
気が合うとか合わないとか、そういう理由ならほんの少しは理解できる。でも、違う。こんなの、違う。
柿本さんは、だから、放送部のあのメンバーに入ったのかな。