先に沈黙を破ったのは、茗子だった。


『輝ってそういうところ、あるよね。まるでわたしたちがひどいことしてるみたい』

「っそ、そんなこと」

『もういいよ。わかった』


 冷たい言葉の直後に、ぶちっと電話が切れて無機質な音が耳に響く。

 そんなつもりで言ったわけじゃない。すぐに、否定しなくちゃ。
 そう思うのに、通話ボタンを押すことができない。

 もしも、出てくれなかったら? もしかしたら着信拒否にされていたら?

 手が、震える。
 
 もしも、中学のときみたいに……なってしまったら。
 もう、茗子は話しかけてくれないかもしれない。今まで一緒に遊んでいた友達も、笑ってくれないかもしれない。


——『輝のそういうところ、ムカつく』
——『輝と、一緒にいるのもうヤダ』

——『だって、輝が——……』


「おい、おい」

「……っ」


 肩をぐっと捕まれて、軽く揺すぶられた。
 その衝動でばっと顔を上げると、いつのまにか戻ってきた大和くんが、私を見下ろしている。


「お前、顔真っ青だぞ、どうしたんだよ」

「あ、帰って、たんだ」

「帰ってたんじゃ、じゃねえよ。なんかあったのか?」


 問いかけられて、一瞬戸惑ったけれどふるふると首を左右に振った。

 大和くんは納得してない表情を見せながらも、それ以上なにも言わず、「はい」と私にご飯を手渡す。

 さっきの会話で食欲は一気になくなってしまった。
 けれど、せっかく買ってきてくれたから、食べなくちゃ……。


「ありがとう」


 力ない笑みで告げると、大和くんは小さく「ん」とうなづくように返事をした。

 そんなときでも、彼は私を見つめてくる。
 目を見て話す人。まっすぐに、真剣に。たった一言でも。

 挨拶するとき、大和くんは絶対に目をそらさない。無視もしないで返事をしてくれる。助けに来てくれるし、怖がっていたら手を差し伸べてくれる。


 やっぱり、私は大和くんが危ない人だなんて思えない。それ以上に、今は、もっと仲よくなりたいって思っている。