高校生活は、想像していたよりも楽しい。
私の通っていた中学からこの学校に進学したのは私ひとりで、はじめは正直不安でいっぱいだった。
けれど、茗子のような明るくってムードメーカーな子と仲よくなれて、毎日笑って過ごせている。
大丈夫。もう大丈夫。うん、楽しい。
しばらく歩くと、坂道と、その上に大きな校門が見えてきた。
校門の真ん前には大きなグラウンドがあり、右手が高等部、左手が中等部。グラウンドの奥には、体育館が見える。
門をくぐって右に曲がって少し歩くと靴箱だ。先生たちの入り口は、それよりも手前。
靴箱とフェンスそばの木々のあたりに数人の男子生徒が固まっているのが見えた。
毎朝毎朝あんなところで集まるなんて、不思議だ。
隣にいた飯山くんは、バッと勢いよく頭を下げた。それに気づいたのか、先輩たちは軽く手を上げて応える。
「あれ、浜岸先輩だよね? そういえば中学の時に同じクラスだった友達が好きなんだってー彼女とかいるの?」
「いや。知らねえけど、あの人ならいてもおかしくねえから、いるんじゃねえ?」
ふたりの会話を聞きながら、そういえばあの先輩もサッカー部だったな、と思い出した。
あの先輩はしかもサッカー部のエースだったっけ。
一度茗子に連れられて部活を覗いたときに、誰よりも目立っていた人だったはず。きゃあきゃあ女の子に言われていたっけ。
100mも2年で一番早いって聞いたこともある。誰かがプロになるに違いないって言ってたかも。サッカー部自体はさほど強くはないけれど、絶対注目されるだろうって。
男らしい顔つきで、背も大きい。ありゃあモテるだろうなあ。
……確かに、かっこいいと思う、けど。
「あんな人嫌だなあ」
「え? なんか言った?」
「なんでもないよー」
ぽつりと独りごちた。
それに反応した茗子にへらっと笑ってから靴箱に向かう。
クラスメイトが数人いて、みんなに挨拶を交わしながら靴を履き替えると、目の前を背の高い男の子がすっと通り過ぎていった。
「うわ、大和だ」
そう言って、茗子がひょこっと私の後ろから顔を出す。
その声に反応したのか、彼が一瞬だけ私たちの方に視線を移した。
冷たい、目。
切れ長の、ちょっと釣り上がった瞳の奥は、真っ黒で、それが"近づくな"って言ってるみたいだ。
髪の毛も真っ黒、目も真っ黒。ついでに制服も黒。それはみんなだけど。
彼はその中でも特別、真っ黒で、誰よりも目立っている。印象がそんな感じ。
一瞬、彼の視線に捉えられて私たち3人とも体が固まってしまった。