あんな人が、どうしてみんなに怖がられてるんだろう。

 本当に……いじめとかしてたのかな。ガラスを割ったのは、本当っぽいけれど、あの大和くんがそんなことをするなんて今となってはイメージが重ならない。

 どっちかっていうと、さり気なく助けてくれそうな人なのに。さっきの図書館みたいに。

 なにか、事情があったとかかなー。

 ぼんやりとそんなことを考えながら、なんとなく携帯を手にした。いつのまに届いていたのか、茗子からのメールを知らせる表示が出ている。


『今日とか明日なにしてるー?』


 土日だからみんなで集まるのかな。
 美化委員がなければ、いや、放送部の人たちとのことがなければしっぽを振って出かけただろう。


『ごめん、美化委員があるから、今週は無理っぽいー』


 泣き顔のアイコンと共に返事をすると携帯がブルブルと震えだした。
 茗子からの電話だ。メールを見てすぐにかけてきたんだろう。


「はいはーい」

『あ、輝ー? メール見たよー。そんなに忙しいのー?』


 明るい茗子の声を聞いて、なんだか気持ちが明るくなる。
 茗子はいつも明るくて、一緒にいると自然に笑えてきて、高校に入って茗子に出会えてよかったなっていつも思う。


「うん、4部屋もあるんだよー」

『ひとりで全部するの!? マジで!?』

「ううん、大和くんも来てくれてるから。大丈夫だけどね」

『え?』


 私も明るい声で返すと、茗子が少し低い声で呟いた。


『大和、来てるんだ。ずっとふたりでいるの?』

「あ、うん……あ、でも、全然怖くないし、っていうかむしろ優しいし、話もしてるし」

『話、してるの?』


 心配かけちゃったかな、と慌てて言葉を付け足した。
 けれど、茗子の返事はまだ暗い雰囲気をまとっている。


「う、ん……でも、ほんと、すごく、優しいし」

『そんなの、ウソかもしれないじゃない』


 少し強い口調に、言葉が詰まってしまった。


『優しくても、危ないんだから、あんまり親しくしないほうがいいって』

「な、なんで、そんなこと」

『だから、大和と一緒にいるのは危ないって。なにするかわかんないじゃん。輝は知らないから、そんなふうに気軽に話しちゃうけど』


 知らないから。
 私は外部組だから。だったら、教えて欲しい。


「……でも、私、よく知らないのに嫌ったりとか避けたりとか、できないし、したくない。そんなの、なんか、いやだ」



 そう告げると、茗子は無言になった。
 私もそれ以上言葉を紡げなくて黙ったまま、数秒を過ごす。