気が付くと、非常階段の下についていて、このまま卓球部の部室に行くんだなと思った。

 私の思った通り、大和くんは非常階段の途中で足を止めて、ひょいっと身軽にそれを乗り越える。


「ん」


 そして、少し離れた場所から私をちょっとだけ見上げて手を差し伸べてくれた。

 私はまだちょっと怖い。下を見たら足がすくんでしまう。だから大和くんをまっすぐに見つめた。

 そしたら、あんまり怖くない。


 無事に私も部室に入ることができて、ベンチに腰を下ろした。
 何回行き来したら怖くなくなるだろう……。っていうか私の場合、慣れてきた時に落っこちそうだなあ。


「あ」

「……次はなんだよ」

「いや、時間あるから購買でご飯でも買ってくればよかったなあって」


 そういえばお腹が空いた。落ち着いて食べられる場所があるなら、食べたいなあ。さっきよりも食欲もわいてきたし、時間もまだあるし。

 でも、またここを出て、またここに戻ってくるのはめんどくさいし、危ないからあんまりしたくない。

 暑いから飲み物も欲しいけど……ここは我慢するしか……。


「なにがほしい?」

「へ?」

「腹減ってんだろ。俺もなんか食いたいし買ってきてやるよ」

「え? ほ、ほんとに? いいの……?」

「いいよ、ついでだし。お前あそこ何度も渡りたくねーだろ。俺も怪我でもされたら迷惑だし」


 そっけない言い方だけれど、優しい。


「優しいね、大和くん」

「は!?」


 あ、ちょっといつものクールな感じが崩れた。
 目を丸くして私を見る大和くんは、いつもよりかわいく見える。言われ慣れてないんだろうなあ。

 クスクスと笑うと、恥ずかしそうに、拗ねたように口を尖らせて「そんなこと言うのお前くらいだよ」と言う。


「大和くん、クラスでは全然話さないもんね。話しかけてもずっとムスッとしてるし」

「言っただろ。この学校のやつらみんな嫌いだって」

「でも、話すと真面目だし優しいよね。口は悪いけど」

「うっせーなあ。俺はもともとこういう性格なんだよ。もういいから、さっさとなにが欲しいのか言えよ」


 これ以上言うと怒って出て行ってしまいそうだ。

 笑いを噛み殺しながら、「おにぎり2つくらいと飲み物」と告げた。同時に500円玉を渡すと、大和くんは「んじゃ行ってくる」と身軽な動作で出て行ってしまった。