私の後ろ姿を見つけただけでこうして図書室に来てくれたんだなあと思うと、頬が緩んだ。

 こんなに優しいんだってことを知っているのが、私だけなのかもしれないと思うと、特権を与えられたみたいに感じて嬉しくなってしまう。
 

「でも、あんなにすごいなんて思ってなかったなあ……」

「言っただろ。勉強しか脳のないやつらがそれだけを誇りにしてたまってる場所だって」


 いや、そこまでは聞いてないけれど。


「あのくらいで済んでマシだったな」

「そうなの?」

「……昔、中等部で図書館行ったやつが、高等部の男にぼっこぼこにされてた」


 まじで!? え! 怖すぎる!



「もしかして、中等部も使えないの?」

「いや、中等部は終わる時間が早いから、行けるタイミングはある。そいつはバカだから、そこで本を読むのに耽ってたんだよ」

「……まさか、それが大和くん、とか?」

「俺がそんなことされるわけねえだろ。本とか興味もねえし」


 もしかして、と思った予想は外れてしまった。

 詳しいから知っている人とかなのかな。同じ学年にそんなことをされた子がいるのか……。
 っていうかそこまでする!? みんなの図書室じゃないの!?

 なんかもやもやする。たかが数年、数ヶ月早く生まれただけじゃないか。
 とりあえず私は後輩にそんなことしないでおこう。絶対。


「ついでに、3年になっても成績悪かったら目をつけられるぞ」

「え!? そうなの?」

「お前総合何番?」


 ぐっと喉をつまらせると、大和くんは色々察したのか「卒業まで図書室行けねえな、お前」と鼻で笑った。

 自分は総合5番とかそんなんだからって偉そうに……! どうせ私は200番台の前半だよ……!


「順位至上主義辛い……」

「お前教室でもずっと嫌がってたな」


 聞いてたんだ。

 ちょっと驚いて顔を見ると、恥ずかしそうに顔を逸らして「声がでけえ」と言われてしまった。

 教室にいるとき、殆ど話さなかったけど……知っていてくれていたんだ。
 それを覚えてくれていたってことも、なんか、嬉しい。