「私たちに邪魔されるくらいで下がる成績なんですか」

「っあんたね……!」


 私の発言に、目の前の先輩の顔が一気に赤く染まった。
 そしてどん、と肩を突き飛ばされる。

 そんなに大したことのない力だったけれど、不意をつかれてしまい、ぐらりとバランスを崩してしまった。

 コケる!

 と、思ったのに、私の体が誰かの体にぶつかって支えられた。


「なにしてんだよ、お前」


 頭上から降ってくる、呆れたような口調。
 顔をあげると、声と同じように呆れたような顔をしている大和くんが私を見下ろしていた。

 
「大和くん」

「ったく、行くなって言ったのに」

「……ご、ごめん」


 はあっとため息をつかれて、素直に謝ってしまった。

 そっと目の前の先輩に視線を移すと、大和くんの存在に驚いたような表情で、少し後ろに下がってから、なにも言わずに立ち去ってしまった。

 最後に、私にじろっと鋭い視線を向けて。

 大和くんは、上級生にも名前も顔も知れ渡っているんだ。もちろん、いい意味ではないけれど。


「出るぞ」


 短くそう言って、大和くんは私の体をぐいっと起こした。そのとき、目の前にいた柿本さんと視線がぶつかる。
 いや、彼女の視線に私が気づいた、と言ったほうが正しいかもしれない。


 彼女は、私を睨んで、いた。


「え?」


 な、なんで?

 問いかけようと思ったけれど、柿本さんはなにも言わずに背を向けて、なにもなかったかのように別の本棚に移動してしまった。

 ……なんだったんだろう。





「お前、俺の話聞いてたのか」

「いや、ぱぱっと済ませたら大丈夫かなーって、思って」


 図書室を出て、校舎を歩いているとき。大和くんが眉間に皺を寄せて私を睨んだ。
 前だったら怖かっただろう彼のそんな顔も、数日であんまり気にならなくなってしまった。

 なんだかんだ優しいのを、知ってしまったからかもしれない。


「大和くんは、どうして図書室に?」

「お前のバカな後ろ姿が見えたからだよ」


 バカな、は余計だけれど、やっぱり優しい。