いじめ事態は今も嫌いだ。見るとやっぱり気分が悪くなるし、苛立つ。
 だけど、色んな感情が麻痺してしまった。耳も目も、塞ぐすべを見つけた。

 いじめに加担したわけじゃない。
 いじめられているわけでもない。

 そんな私があの放送になにを感じたのか、言葉にするのはとても難しい。自分でもよくわかってないんだもん。

 だからかもしれない。


「……答えを知りたいから、かも」


 このくすぶっている思いが出口にたどり着くために、なにか答えを得たいのかもしれない。教えてもらえるのかもしれない。


「俺と一緒だな」


 だけどきっと、これだけはわかってる。


——『この学校から、そんな下らないことを排除する』


 鷲尾先輩の言葉。
 それは、私たちの探している答えじゃない。


「そういえば……明日も集まるのかな」

「さあ、そういやどうなんだろうな。知らね」

「ちゃんと、話がしたいな、みんなと」


 よく考えれば、私はみんなと話をしてないんだ。鷲尾先輩の気持ちはいいとして、他の人の気持ちを、まだ聞いてない。私だってまだ、大和くん以外に伝えてない。

 聞いてみたい。
 話をしてみたい。

 その先に私はなにかを見つけられるような気がする。見つからなかったらそれはそれで、別に構わない。


「してみれば? 俺はしねえけど」

「……なんでしないのよ」

「俺あいつらと話すとイライラするんだよなあ。よくわかんねーけどすげえムカムカして、学校中のガラス全部割りたくなるんだよ、また」


 また、という言葉を告げてから、大和くんはにやりと笑った。

 やっぱり、ウワサは本当なんだ。だけど、……なにか、今の私と同じような気持ちを抱いていたからなのかな、と感じる。

 許されることじゃないけど、それを怖いとは思えない。


「私は、大和くんの答えも、知りたいと思う」

「……つまんねーかもよ?」

「ふふ、いいよ、そんなの。だから、一緒に探して、みない?」


 ひとりよりも、ふたりのほうがきっといい。
 ひとりだったら、私、わからないこともわからなかったと思うから。


「明日、誰もいなかったら、ふたりでクーデター起こすか」


 しばらく、大和くんはなにかを考えるように黙っていたけれど、不意にそんなことを呟いた。


「いいね、それも。ガラス割るところから始めようか」

「ふは、バカだなお前」


 大和くんが口を大きく開けて笑った。

 彼が隣で、こんなふうに笑っていてくれるなら、本当に割って、みんなに距離を置かれてもどうってことないような、そんな気がした。

 いや、……しないけどね。


 2時間ほどふたりで掃除をして教室を出ると、大和くんは「じゃあな」と逃げるように帰ってしまった。