「中学に入って、隣の小学校と一緒になって、新しい友だちが増えて。はじめはみんなで仲良くしてたんだけど……些細な事が原因で、ひとりの女の子が無視されたの。原因は思い出せないくらい、本当に些細なことで」

「女子にありがちだな」

「うん、ほんと。多分黙っててもすぐに仲直りしただろうなって今では思うんだけど……、私、それがすごく嫌で。友達に文句言ったんだよね」


 無視されたのは小学校から一緒の友達だった。一番の友達で、私も無視するように言われたけれど、それが耐えられなかった。


——『無視なんてしたくない。私はなにもされてない』

——『無視なんて卑怯なことしないで、話せばいいじゃない』

——『勝手にすればいい。でも私には関係ない』


 あの台詞が間違っているとは、今も思えない。

 些細な事で無視をして、"自分がどれだけひどいことをしたのかわかってもらう”なんて、理解できない。

 でも。


「結局その後無視されたのは私になった」


 それは、あっけなく。

 ごろごろと坂道を転がり落ちるように。ヒエラルキーの最下層まで堕ちて、いつのまにかそこからもはじき出されてしまった。

 私は誰にも話しかけられなくなった。私だけが悪者になり、友達だと思っていた子も、私を避けてしまった。


「ずっと?」

「……それだけじゃないけど、それをきっかけに、卒業までずっと」
 

 あの事件から私は、超えてはいけない一線を作ってしまった。


「だから、こんな私立に入学したのかお前」

「ここだと、誰もいなかったからいいなって。家から1時間以上もかかる私立なんて併願でも誰も受験しないからね。なおかつここは偏差値もそこそこ高いし」

「いじめから逃げてきていじめの巣窟にくるとか、運がねえなあお前も」

「ふ、そうかも」


 冗談めいた口調と内容に、くすっと笑ってみせると、大和くんもかすかに笑った。
 彼なりの優しさなのかと思うと、それが染みる。


「あ、でも! 今、楽しいよ、私。友達も出来たし、またいじめられるとか、そういうこはあんまり考えてないし。無理して一緒にいるなんてことはないんだ」

「じゃあなんで、たまたまとはいえ、あいつらと一緒にやろうって思ったわけ?」


 その質問に、暫く首を傾げて考えてみた。

 いじめをなくしたいのかと言われると、わからない。いじめられた過去が辛かったのかと言われると、それも、わからない。