「俺とお前がこうして話してるのを誰かに見られたら、お前の評価は一気に落ちるだろうな」


 すっくと立ち上がった大和くんは、掃除道具入れに近づいて中から箒を取り出した。そして1本を私に差し出す。


「俺みたいになったら最悪だぞ。誰も話しかけてこねえし、せんせーらも俺なんていねえみてえに扱うし。プライドだけ高い奴らに文句言われたり。俺の場合そのヒエラルキーにも入ってねえからな」


 笑いながら言っているけれど、なぜか私には、苦痛にゆがんでいるように見えた。


「……それを、壊すことは、できないの?」

「さあ、どうだろな。そんなもん最初からどうでもよかったしな。成績や見かけだけで寄ってくる女も男も大人もうざかったしな」

「ふは。自分で言っちゃうんだ。見かけって」

「自分のことよくわかってるだろ、俺」


 適当に床を掃きながら、大和くんは楽しそうに笑った。
 それが嬉しくて私も思わず笑ってしまった。

 こんなふうに、ずっと笑っていられたらいいのに。
 大和くんも、私も。

 
「私も、中学まではそれこそ……ヒエラルキーからはじき出された存在だったんだ」

「へえ。意外だな。お前結構気が強いのに。そうでなくても教室でうまいこと立ちまわってんじゃん」

「中学で学んだから、そうしてるだけ」


 そう、もう二度と……同じようなことにならないように。細心の注意を払って学校で過ごしているだけ。
 

「大和くんの言うように、私、気が強かったんだよ。だから、いじめとかすごく嫌いだった」


 中学1年の頃までの私。
 ヒエラルキーなんてものをそのときはなにも考えていなかったけれど、少なくとも私は、最下層ではなかっただろう。

 あの頃は成績もよかったし。


「友達はいたんだよ。小学校からずっと一緒の友達が、何人もいて、毎日放課後は遊んでたくらいに仲がよかったんだ」


 箒を動かす手が止まってしまった。
 ぎゅっと力を込めて、声が震えてしまわないようにするのが精一杯だ。

 この話を、誰かに伝えるのは、初めてだからだろう。