心臓がバクバク鳴っているのは、キスシーンを見てしまったからなのか、大和くんとの距離が近いからなのか。もうわかんない。

 熱が帯びた顔を覚ますように両手で頬を包みながら、心を落ち着かすように目を瞑る。


「お前、もしかして初恋もまだとか?」

「……そ、そんなことないし!」

「へー。でも誰とも付き合ったことねーだろ」


 ぐ。
 言葉に詰まった私を見て、大和くんはケラケラと笑う。


「そういう自分はどうなのよー」

「……秘密ー」


 付き合ったことあるのかな……。

 でもよく考えたら、当たり前かもしれない。だって、かっこいいもんね。この学校では誰とも話してないし、そういう話を聞いたこともないから、他校の子とかかな。

 どんな子と付き合っていたんだろう。
 ううん、もしかして、今も付き合っていたりするかもしれない。
 
 ……付き合っている彼女には、どんな顔を見せて、どんな口調で話すんだろう。
 今、私が知っている彼とはまた違うのかな。


 そう考えると、心にもやっと黒い影ができたような気がした。


「あのセンパイ、隠れて付き合ってんのかもな」

「え、あ、ああ。なんでそう思うの?」

「この学校では、身分違いっていうのが存在するからな」

「……身分って。なに? 貧乏な人と裕福な人とか? そういうのあるの? それかロミオとジュリエットみたいな感じ?」

「ドラマの見過ぎじゃねえのお前。そんなもんあるわけねーだろ」


 苦笑されても。
 だってわかんないんだもん!


「成績優秀なやつと、頭の悪いやつ。見た目が派手なやつ。地味なやつ。運動のできるやつ。なにもできないやつ。そういう身分だよ。さっきも散々話してただろ。ヒエラルキーとかいうやつ」

「ああ……そういうことか。確かにあるよね……」


 言われて自然に納得することが出来た。
 身分とか言うから何事かと思った!

 別に勉強ができなくったっていいとおもうんだけどなあ。勉強と運動だけが全てじゃないと思う。そんなことで順位をつけて、自分の立ち位置を明確にされるのは、やっぱり嫌だ。


 ……数学のテストでは中の下、もしくは下。
 そんな自分を目のあたりにする度にへこむし。