「その子が言っていた。いじめは学校で黙認されてる。黙認されているどころか、いじめられる方が悪いのだと、そういう考えなんだって……いじめられたくなれば、同じようになるしかないと」
そこまで言って、鷲尾先輩は小さく深呼吸をした。
そして、そっとみんなを見渡す。みんな、というよりも……放送部の人たちを。
みんなはかすかに頷いたような気がした。
「そんなの、間違ってる。だから……ぼくらは放送を流したんだ」
視線は、浜岸先輩を捉えていた。
「この学校から、そんな下らないことを排除する」
浜岸先輩は、なにも言わずにまっすぐに、鷲尾先輩の視線を受け止めていた。
「つまりは、いじめをなくそうぜってことぉ?」
「……そういうことになる、かな」
「ふうーん。まあ、いいけどぉ」
蒔田先輩は椅子に座って脚を組み替えながら肩をすくめた。
納得しているのかしていないのか、よくわからない。正直言えば……放送部の5人を除いた3人は、同じ気持ちを抱いていないんじゃないだろうか。みんな表情が固い。
私たちは、いじめられる側の人間じゃない。
だけど、彼らの気持ちは理解できる。私はそれを知っている。
だけど……彼らの気持ちに共感しているのかと言われると、少し違うような気もする。
ぶっ壊したい。ぶっ壊して欲しい。
この窮屈で憂鬱な毎日を。なにかが麻痺していくような感覚を。
だけど、あの放送を聞いたときのような衝撃を、私は鷲尾先輩の言葉からは受け取ることができなかった。
なんでだろう。
なにが違うんだろう。
「おれも、その意見には賛成だな」
突然私の背後から聞こえてきた同意の声。っていうかこんな声の人いたっけ。
ばっと驚いて振り返ると、ドアに手をかけてにこにことほほ笑みを作っている人が中を覗きこんでいる。ネクタイの色は……紺色。ってことは3年の先輩だ。
いや、それよりも。
この人を私は知っている。
短髪というほどではないけれど短めの、清潔感のある髪型。口元は常に弧を描いている。大きな瞳は、すごい眼力がある。
「せい、と、会長……?」
「あれ? おれのこと知ってるんだー、ありがとー」
私が呟くと、先輩はにこーっと笑ってくれた。
ぱあって背後から花びらが舞うみたいに爽やか。でも温かみがある。