「そ、それって」
「つまり、もみ消すってことでしょー?」
「は?」
なにを?
「隣の、彼の起こした事件とか、あそこのいじめっ子のいじめとかを。適度に把握して、もしも事件になりそうになったら裏で手を回してんじゃないのーってこと」
先輩は、口端を持ち上げてにやりと笑った。
な、なにを言っているんだろう。
そう思ったけれど……口にすることはできなかった。
確かに……毎朝あんな生徒たちの目につく場所でいじめを行っていた浜岸先輩。先生たちだって目にしたことはあるんじゃないかと思う。それでも、なくなることはなかった。
それに。
先輩が視線を向けた先、大和くんが起こしたと言われる事件。話だけを聞いていれば結構大きな事件になっただろうと思う。
だけど、大和くんは生徒たちに避けられているだけで先生になにかを言われているような感じはない。
それは……浜岸先輩がサッカー部のエースだから。
大和くんは、成績優秀だから、っていうこと。
「この学校には、明確な、ヒエラルキーが存在するん、だ」
「ぼくたちは、最下層だね」
黙って私と先輩の話を聞いていた立森先輩たちが苦笑交じりに呟いた。
「去年、不登校になったきりの同級生がいた」
鷲尾先輩がメガネを少し持ち上げてから口にする。
「去年だったわね。それ。鷲尾くん同じクラスだったのよね」
「その子は、いつもテスト順位が最下位だった。そのせいで、先生にもクラスメイトにもバカにされてた」
先輩の口調には、かすかに怒りが込められていた。
もしかすると、先輩の友達だったのかもしれない。
「勉強はできないけど、明るくて、頭の回転が早かった」
「……そんなわけねえだろ」と浜岸先輩が小さくつぶやく。
鷲尾先輩はすぐに「きみらが……!」と食って掛かろうとした。けれど、続きの言葉をぐっと飲み込んでから、心を落ち着かすように深呼吸をした。