「他の部屋とか行けばいいじゃねえか」

「どこもないよ、そんなの。どの教室も鍵があるんだから」


 浜岸先輩の意見を、鷲尾先輩はあっさりと否定した。それが気に入らなかったのか彼の表情が曇る。

 でも、鷲尾先輩の言うとおりだ。

 この学校の教室にはすべて鍵がある。それがないと中に入れないし、なおかつ今は……美化委員が掃除をしている。

 放送室なら放送委員ということで特に気にされないけれど、他の教室に集まっているのを誰かに見つかったら、不審がられるだろう。

 そうでもなくてもこのちぐはぐなメンバーだ。怪しまれるに違いない。


「あんまりみんなで違う場所に行くのは避けた方がいい」

「ここにこんなにもいろんなキャラが集まってる時点でどうかと思うけどね」

「それを言ったら元も子もないだろう。色々話した上で、ここが一番安全だって話にまとまったじゃないか」

「……そこまで警戒しなくてもいいような気もするけどね、ぼくは。どうせぼくらみたいな底辺の人間のこと、この学校の人は気にしないだろ」


 七瀬先輩がくいっと、マンガやアニメでよく見るしぐさでメガネを持ち上げた。


「なにそれぇ、卑屈ー。そんなことないでしょー」

「……蒔田さんみたいな頂点にいる人にはわからないわよ」


 榊先輩のツンとした態度に、蒔田先輩はぷくっと頬をふくらませてわざとらしい仕草ですねてみせた。


「お前ら自分でそんなかっこわりーこと言ってて恥ずかしくねえの?」

「浜岸くんだって、僕らがどんな立場かってことくらい、十分理解してるだろ。自分たちのことを、僕らはちゃんと客観的にわかってるってことだよ」


 鷲尾先輩は、少し悲しそうに、だけど浜岸先輩に負けないような強い口調で告げた。
 私も、鷲尾先輩や榊先輩の発言の意味を理解できないのは、彼らとは違うから、ということなのだろうか。


「この学校が、生徒が、いじめを見て見ぬふりしていることはみんなわかってることじゃないか」

「そんなことないでしょー。さすがに」

「順位をつけて晒しているのがいい証拠じゃないか。順位をつければ優劣ができるのは当然のことだ。それに実際、なかったことにされたことだってある」


 なかったことに……って、どういうことだろう。


「でも、確かに……それはあるかもねー……」


 そういいながら、蒔田先輩がちらっと浜岸先輩と大和くんに視線を送った。