学校に着いたのは、昨日よりも少し早い時間。運動場では今日もサッカー部が活動していた。陸上部は休みらしく、いつもより静かだ。
靴箱はしんと静まり返っていて、誰も学校にいないんじゃないみたい。
でも、放送室にきっと、先輩たちがいる。
静かに目をつむってみる。そして、すうっと息を吸い込んでから自分に問う。
『このままでいいの?』
『また、前みたいになるかもしれないよ?』
『このまま、また前みたいに過ごすことができるの?』
迷惑をかけることはわかっている。怖いと思う気持ちはある。それでもあの放送が未だに脳内で何度も何度も聞こえてくる。
あの言葉は、私の押さえつけていた欲求だった。
気づいてしまうと、元に戻ることも、前に進むことも、容易じゃない。
ひとりきりの教室。
誰とも会話をすることなく過ごす毎日。
携帯電話は誰からも連絡が入らない。
「経験済みだよ」
ふ、と笑みがこぼれた。
同時に私を訝しげに見つめる大和くんと目があった。
ああ、彼も、経験済みだっけ? 現在進行中で。
「おはよう、大和くん」
「なに笑ってんのお前」
「一度が二度に増えたところで、どうってことないよなあ、って思ったところ」
そう答えると、彼は意味がわからないと言うように眉を寄せた。
「行こう、放送室」
私が声をかけると、彼はじっと私を見てから「いいけど」と歩き始めた。
放送室は、1階の突き当り。
そういえば昨日足を踏み入れるまで放送室がどこにあるのかも私は知らなかった。職員室の斜め前の教室で、こんな場所であの放送を流すなんて度胸があるなと思う。
それだけ本気ってことだ。
ドアの前に立って、ごくりと喉を鳴らす。
昨日は大和くんに連れて来られただけだった。成り行きみたいな感じ。
でも、今日は自分の手で開けよう。
「入らねえの?」
「今入るから待って。私が開けるから大和くん開けないでよ」
後ろでめんどくさそうな顔をしている大和くんにそう言うと、彼の「あ」と同時にドアがガツンと私の脳を揺らした。
「っい……」
「あ、ご、ごめん」
「ぼーっと突っ立ってるからそんなことになるんだよバカじゃねえの」
優しい言葉くらいかけてくれてもいいのでは!
振り返っていたから後頭部に当たったけど、前を向いてたら鼻が潰れていたかもしれない。