「大和くんは、どこいくの? 委員会出るんでしょ?」

「……卓球部の部室」


 そう言われたけれど、どこなのか全くわからなかった。っていうか卓球部って、この学校にあったっけ。内部組だから知らないだけかな。

 それに大和くんと卓球部って、全然イメージが結びつかないんだけど。

 首を傾げる私に、大和くんはかすかに微笑んだ、ような気がした。その瞬間、不意に息をするのを忘れてしまって胸が苦しくなる。

 すごく、優しい目をしている。
 元々がつり上がっているから余計に、そう見えるの、かな。
 こんな表情、不意打ちで見せるとか……やめて欲しい。心臓に悪い!


「来るか?」

「え? あ、卓球部?」


 問いかけたけれど、彼はなにも言わずに歩き続けた。
 多分、卓球部、だろう。
 行ってもいいのかな。私と、一緒に時間を潰してくれるのかな。

 大和くんは私と一緒にいてもいいと、思ってくれているのかな。

 そう思うとなんだか嬉しくて、にやけてしまいそうになる顔をごまかすように唇を噛んで後をついていった。


 突き当りまで歩いて、左に曲がる。真っ直ぐ行くと右に外にある非常階段へ出る扉があった。内側から鍵がかかっていて、隣には普段使用する階段もあるからか、殆ど使う人はいないだろう。

 大和くんはその鍵を回してあけて外に出る。

 外の空気はずしんと重く、蝉が鳴き喚いている。じりじりとコンクリートの灼ける音も聞こえた気がした。

 てっきり下に降りるんだろうと思ったら、大和くんは屋上の方に向かって行く。どうやって行くつもりなのかと首を傾げながら、隣にある建物を見つめた。

 中等部と高等部の校舎の間にある、古い木造の部室棟。今使われているのはその隣にある新しい部室棟のため、ここを使用しているのは同好会らしい。

 そしてその正面には大きな体育館。中等部も使うからか、広さは一般的な体育館よりもずっと広い。

 バスケットボールが跳ねる音と、部員たちの掛け声も聞こえてきた。


 3階と4階の間で彼は足を止めて、「こっち」と外を指さした。


「え?」

「ここから部室棟にジャンプ」

「む、無理無理無理!」


 大和くんの指した方向には、確かに部室棟がある。丁度とある部屋のベランダと呼ぶには小さすぎるベランダが、50センチほど距離にあるとはいえ。

 これを飛ぶとか! 無理でしょ!


「ちょ、ちょっと!」


 私の声なんて聞こえていないかのように、彼は非常階段のてすりに足をかけた。引きとめようにも、余計なことをしてバランスを崩されたらと思うと隣であたふたするしかできない。

 ほ、と小さな声を発しながら彼は部室棟に渡った。ジャンプ、というよりも大股で。
 ……私の身長でその大股ができると思っているのか。