「……ま、蒔田(まきた)さん」
「あれ? えーっと……見たことある! 同じクラスだっけえ?」
真面目そうな榊先輩が驚いた表情で名前を発すると、女の子は首を傾げながら明るい声で答えた。ちょっと語尾を伸ばすのはこの人のクセだろうか。
なんにせよ、スポーツマンの先輩も、この明るい女の人も、ヒエラルキーで言えば頂点にいるような人たちだ。
そんな人たちがどうして……ここに?
「きみも、放送を聞いて?」
「そーだよぉ。人に見つかるとまずいから休みの間に集まってるんだろうなあって来たんだけど、もう場所がわかんなくってー。すっごい探したんだからぁ」
少なくとも、私よりも本気であの放送を受け止めて来たらしい。
鷲尾先輩の問いかけに、彼女は髪の毛を指先でくるくると弄りながら答える。
ぐるりと部屋の中を見渡すと、ちぐはぐなメンバーが揃っている。
いじめられっこと、不良と、普通の私と、派手な女の子にいじめっこの先輩。
……本当にこのメンバーで……大丈夫なの?
どう考えてもまとまりそうにない。鷲尾先輩たちを含めた放送室にいた5人にとって、このメンバーがここにやってくるなんて想定外もいいところだと思う。
現にみんなどうしていいのかわからないようすで、無言だ。
「なに? やめんの?」
戸惑いに包まれた空間に、ぶっきらぼうな言葉を発したのは、隣にいた大和くんだった。
彼の言葉に鷲尾先輩はハッとして顔を上げて、きゅっと唇を噛んでから「……いや」と小さく答える。
「反乱は、起こす。でも……」
「でも、なんだよ!」
ちらりと視線を送られた相手、浜岸先輩が大声を出した。
それにこれみよがしに耳に手を当てて「うるさっ」と顔をしかめたのは隣にいた蒔田先輩だ。
「なんだよてめえ! いちいちうぜえな!」
「あーもう、声でかぁい! うるさいなあー」
「ちょ、やめ、やめろよ!」
「てめえは黙ってろ! オレに偉そうに話しかけんじゃねえよ!」
……だめだ、これ。
先輩たちの会話を見ていると、絶望しか感じない。どうやってまとまるのこの人たち。
っていうか浜岸先輩が問題だよなあ。
ほんと、なんで来たんだろう。邪魔しに来たって言うならまだわかるけれど……そのためにこの場所を探しだしたなら執念深すぎる。
終業式まで1週間ほどしかないのに、こんなの絶対無理。