……中には、5人。
 知っている顔がふたり。知らない人が3人。私と大和くんの顔を交互に見て、驚きを隠せないのか言葉はない。

 リボンやネクタイの色から見て、学年はバラバラだ。


「昨日の放送を聞いて来たんだけど」


 そんなことお構いなしに、彼が言葉を発する。

 まさか、彼が来るなんて思ってなかったんだろう。中にいる人たちは、その中のひとりに視線を集中させた。

 多分、彼が……リーダーだ。

 まさか、彼がそんなことをするなんて、思わなかった。けれど、昨日の放送を思い出せば、彼であることも納得できる。

 緑色のネクタイ。2年の、先輩。
 いつも、靴箱のところで集まっているうちのひとり。いや、集まっているという言い方は多分間違っている。

 "連れて来られている"先輩だ。


「きみ、1年の……大和くん、だよね。なんできみみたいな子が?」

「学校ぶっつぶせるなら、と思って」


 間髪入れずに大和くんが答えた。

 その言葉に、思わず怯んでしまったのは、私だけじゃなく、"反乱軍"を名乗った目の前の彼らもだった。

 "ぶっ潰す"
 その言葉が、私の脳内でリフレインする。

 そんなことが、できるんだろうか。そんなことが可能なんだろうか。彼らは、なにをどうするつもりなんだろう。

 うまいこといくなんて思えない。だってこんなこと無謀すぎる。こんなの、無茶だ。私たちに、そんな大層なことが……できるはずない。

 
 でも、目の前の彼らは、本気だ。
 大和くんも含め、本気でなにかをしようと思っている。

 5人のうち、ふたりしかわからない。だけどふたりはいわゆる、"いじめられっこ"だ。おそらく、残りの3人も同じ立場なのだろう。

 ヒエラルキー最下層部、というのは失礼かもしれない。けれど……多分、本人たちもそう感じている。教室にいたら、息を潜めて過ごしているだろう人たち。

 だからこそ、あの放送だったんだ。


 変える。
 壊す。
 そして、作る。


 どくどくと、血液が体の中をすごい勢いで駆け巡るのがわかる。



「あんたは?」


 不意に大和くんにそう尋ねられた。

 みんなの視線が私に集中する。その瞬間、逃げ出したくなった。だけど、脚が震えないように体中に力を込めて、歯を食いしばる。


 ——『なんで、そんなことしたの?』


 また、そんなことを言われるのかな。
 みんなの泣いている顔。両親が頭を下げる姿。冷たい視線と、微かに上がった口角。

 昨日会った、彼女の顔。
 見て見ぬふりしている今までの私。

 今までの日常。茗子たちと笑って過ごしていたけれど、ずっと目を塞いでいた、生活。
 自分だけれど、自分じゃないような、もどかしさ。


「私、も!」


 ぶっ壊せるのなら、ぶっ壊したい。ぶっ壊してくれるなら、ぶっ壊して欲しい。

 私の返事に、隣にいた大和くんが微かに笑ったような気がした。


「ようこそ、反乱軍へ」


 リーダーらしき彼が、満足気に微笑んで、放送室の扉を大きく開いて私たちを招いてくれた。

 一歩踏み出せば……元の日常にはきっと戻れない。