「なに?」

「え!? あ、いや、大和くんってもっと、話しにくい人だと思ったんだけど、そんなことないね」


 見ていたことがバレていたらしく、彼がじろりと私を睨んだ。どうやらジロジロ見られるのが嫌いらしい。

 さすがに睨まれると怖い!

 慌てて適当に話すと、「ああ」とひとり納得したかのように呟いた。


「この学校の連中、嫌いだから」


 どうして?と、聞けない雰囲気があった。
 彼の目が、なにかを憎んでいるように鋭く、冷たく感じた。

 なにがあって、どんな理由で、そんなにも嫌っているんだろう。でも、それを問うのはためらわれる。

 言いたくないこと、思い出したくないことは、誰にでもきっとある。私にもあるように。


「おい、着いたぞ」

「え?」


 ひとり考えこむように歩いていると、大和くんに引き止められた。集合場所を通り過ぎていたらしく、慌てて振り返る。

 けれど。


「……放送、室?」

「ここだろ、多分」

「え? え? なにが?」


 なんで美化委員が放送室なんかに? 意味がわかんないんだけど。集合場所って、確か会議室みたいなところじゃなかったっけ?

 戸惑う私に、大和くんが首を傾げる。



「お前も、昨日の放送聞いて、来たんだろ?」



 はい?



 きょとんとすると、彼は一気に不機嫌な顔に変わっていく。私が今まで見たことのある彼の顔だ。
 ものすっごく嫌そうな顔。


「話して損した。違うならどっか行けば?」

「え? いや、ちょっと……」


 そんなあからさまに態度変えなくてもいいんじゃないの? そんなに悪いことしたの私。
 っていうかちょっと舌打ちされたよね今。

 私の発言なんて聞こえないかのように、彼は放送室の扉を、ガラリと開けた。

 と、同時に中でガタガタと驚きの音が聞こえてきて思わず、視線を放送室に向けてしまった。