空は高く、太陽が照り輝いている。


「シャツと同じ空」

「なにそれ」


 七瀬先輩に靴を持ってきてもらって、生徒指導室を私の持っていた鍵を使ってこっそりと抜け出した。

 中等部の校舎裏は見つかる可能性は殆どない。だから、みんなのんびりと校門を目指しながら歩いていた。

 白く感じる空を見上げながらつぶやくと大和くんが突っ込んできた。

 自分のシャツをつまんで「この青鼠色の空」と笑う。


「それ、青鼠じゃねえよ」

「え? どういうこと」

「俺らのシャツの色は、えーっと、なんだっけ?」


 首をひねっている大和くんに、前をしぶしぶ歩いていた会長が振り返る。

 最後まで渋っていたけれど、みんなに「共犯者だろ」と無理やり連れだされた会長は、そわそわ落ち着かない様子だ。

 こういうの慣れてないんだろうなあ。

 みんなもそんなことしそうにないけれど、一度クーデターを起こそうとしたからか、大胆になったような気がする。もちろん私も。


「生徒手帳に書いてるけど、見てないの?」

「っていうか入学式でも校長かだれかがしゃべってたよなあ、なんだっけ、このシャツの色」



「秘色色(ひそくいろ)」



 秘色、いろ。この色が。



「着物の色だよ。昔は庶民の使用を禁止されてた、色。高校生活が、青春が、そんな貴重な高級感のある、特別な日々になるように、とかそんな理由」

「へえ……」


 秘色か。この色が。
 そう言われると、すごく、綺麗な色に見えてきた。

 青春の色。そうか、私たちの青春は、秘色色なのか。


 中等部の校舎を抜けると、校門が見えてくる。逃げ出したい気持ちが高まって、みんな自然と小走りになる。

 すると後ろから「お前ら!」と大きな声が響いた。
 教室にいないことに気づいた生徒指導の先生が、廊下の窓から顔を出して私たちに叫んでいる。

 つるっと禿げ上がった頭が太陽の光を反射させた。


「うわ、やべ見つかった!」

「逃げるよ! 今更捕まるとかありえないー!」


 目の前のみんなが、一斉に走りだす。みんなが綺麗な色の青色を身にまとっていて、空と同化して見える。


 秘色色に染まる、私の毎日。