だけど、必死だった。
翔子の言葉を遮った、あの日。彼女がなにを伝えようとしていたのか、私は、耳を傾けるべきだった。
もっと、もっと前も。
無視をしようと言い出した友達に、私は"どうして?"と聞いてみてもよかったかもしれない。
今度、電話があったら、駅で会ったら、声をかけてみよう。
それで仲直りできるかはわからない。
私はまだ彼女たちのことを優しく受け入れられるほどできた人間じゃないし、相手もそんなつもりはないのかもしれないし。
でも、話してみないとわからないんだ。
「……絵を、習いに行きたいな」
「へー。お前絵とかかけるんだ」
「これでも順位表で美術は10番以内になってたんだから」
自慢気にそう言うと、大和くんはまた「へえ」と言った。
諦めてしまった、無理だと思っていた。
でも、やりたいなら、また、声にすればいいんだ。
うまくいくかなんて、まだまだわからない。
2学期が始まればまた、学校でいじめを目にすることがあるだろうし、先輩たちだって急に友だちができる、なんて思ってないだろう。
解決することは難しい。
すぐになにかが変わるなんてことはなかなかない。
でも。
一歩を踏み出せたから、次の一歩がまた踏み出せる。同じ方法だったり、過去の失敗を活かして違う方法だったり。
なにより一歩を踏み出せた自分のことを、昨日よりも好きになれる。
クーデターを起こそうとしたことは間違っていたかもしれない。
でも、行動に移そうと決意した気持ちは、宝物のように思える。
あの日、決意した気持ちを、忘れないでいたい。
「……両親に言えて、よかった。私の悪いところもたくさん、分かった」
「よかったな」
「ありがとう、大和くんといっぱい話せたから、私は私らしく、過ごすことができるよ」
「大げさだな」
素直に告げると、大和くんはちょっと照れたように見えた。
「でも、俺も」
「んー?」
「相田がいつも話しかけてくれたから、挨拶するっていう行為が誰かとできていたから、学校にこれたと思ってる。久のことも、知れたしな」
ちょっと恥ずかしそうに、目をそらしながら小さな声で告げた。
しっかりと聞こえてきた嬉しいセリフ。だけど、「え?」と思わず聞き返してしまった。
それを聞いて、大和くんは少し、いじけたような表情で私をちらりと見る。
「お前が声をかけてくれるのが、嬉しかったって、ことだよ」
頬を赤く染める大和くんにつられたのか、それとも大和くんのセリフのせいなのか。私の顔が、ボッと火が付いたかのように熱くなった。