「ありがとう、ございます。止めてくれて」

「はあ!? なんでだよ」

「浜岸くんも、わかってるんだろ。あの場所で叫ぶってことは、押し付けになることに。僕も今気づいたから、偉そうには言えないけれど」


 私たちは、聞いて欲しかった。口にして伝えたかった。
 そう、誰かに。だけど、誰でもいいわけじゃない。

 私たちの声を聞いて欲しいと思うならば、相手の声にも耳を傾けなくちゃいけない。



 クーデターは、一方通行なんだ。
 力で、声を聞かせたあと、私たちはただ、自分がすっきりするだけ。

 答えを求めるでもなく、意見を聞き入れもしないまま。



「でも……お前、みんなに言いたかっんじゃねえのかよ」

「僕はもう、言ったよ。浜岸くんに。そして、受け入れてくれた。今そんなふうに言ってもらえているってことが、僕は一番、嬉しい」

「……オレ、は」

「もちろん、叫びたかったけど、口にすることができた。叫ぼうと思えた。覚悟をした。それって、すごいことだと思うんだ。みんながいたからそう思えた」


 鷲尾先輩の言葉には、すっきりしたような、そんな爽やかさがあった。


「いいわけあるか……! オレは、オレはまだ言ってねえよ!」


 浜岸先輩の声は、今までで一番大きかった。
 だけど、今までで一番か弱くも聞こえた。


「オレはまだ、お前に……謝ってねえ」

「な、なに?」

「謝らねえといけねえんだよ、オレは。いじめることになんの罪悪感も抱いてなかった。むしろ楽しかった。ストレスだって発散できたし、便利だとも思ってた」


 浜岸先輩の言葉は意外だった。
 まさか、先輩の言いたかったことが、謝罪だったとは、思ってなかった。

 内容は、いじめっこそのもので、本当に今、悪いと思っているのかわからないけれど。


「楽しかったよ、お前をいじめるの。やりだしたらどんどんエスカレートするほど、癖になった。でも……一緒にいる奴の顔をふと見たときにぞっとした」

「…………」

「オレは、こんな、醜い顔で笑ってんのかって」


 鷲尾先輩は黙ったまま、浜岸先輩を見つめている。
 浜岸先輩は、うつむいたまま。



「学校で偉そうにしてるオレは、こんなにも醜い。気づいたら……周りにいる奴がよってたかってくるハエみたいに思えてきた」

「なにそれー、自分が悪いんじゃん」

「わかってるよ! わかってるから……っ!」


 呟いた蒔田先輩にすぐさま反応し、叫ぶ。
 先輩の言っていることはなんて、身勝手なんだろうと思った。

 だけど、その言葉は、私の心に響く。