チャイムが鳴って、みんなが席につく。
 すぐに担任がやってきて、簡単なホームルームを済ませてから「体育館に集まるように」と告げた。


 ——とうとう、始まる。


 茗子と話したことで、今日、今からすることに対して勝手に背中を押されたような気分になった。

 話をすること、相手の言葉をちゃんと聞くこと。
 私たちは、それをしなくちゃいけないんだ。

 それをするために、戦うんだ。今日、そして、これからも。


 放送室にはきっと、七瀬先輩がいる。体育館の様子を聞きながら、あの放送を流す予定だ。
 みんなが体育館から出ないように、生徒会長に預かった鍵で封鎖する。それをするのは榊先輩と立森先輩だ。
 
 その後、みんなで体育館裏にあつまり、ひとつだけ開けておいた窓から控室に忍び込んで鷲尾先輩が前に立つ。両脇には浜岸先輩と会長が先生たちの妨害を阻止するつもりらしい。


 鷲尾先輩が宣戦布告をし、その後に思いを告げる。
 そして、みんな順番に話し始める、という予定だ。

 
 ぞろぞろと体育館に向かう列にまざって、さり気なく大和くんがぬけ出すのが見えた。それを確認してから「トイレ」と言って茗子たちと離れる。


「……なんか、考えてるでしょ?」


 茗子が小声で私に言って、びくりと体が震えた。
 みんなにも、迷惑をかけるかもしれない。でも、さすがにこれを伝えるわけにはいかない。


「終わったら、話す……ごめん」

「まーいいけどさー」


 もしかすると茗子は気づいているかもしれない。
 それでも送り出してくれたことに「ありがとう」と言って横の階段を登っていった。


 2階で非常階段に移動して降りていく。
 隣の古い部室棟を見上げて、なんだか懐かしい気持ちになった。

 また、あそこで大和くんと話がしたいなあ。


「大和くん」

「よう」


 先を歩く背中に呼びかけると、振り返って足を止めてくれる。隣に並ぶと一緒にゆっくりと歩いてくれる。

 たった数日、こうして歩いただけ。
 だけど、ここはとても、ドキドキして、落ち着く場所だ。


「あいつらと仲直りしたんだな。なにがあったかしらねえけど」

「……うん」

「よかったんじゃね? 明日から夏休みだし」

「そう、だねー。夏休みかあ……大和くんはなにするの?」

「……久を探す」


 そう言った大和くんはいたずらを企む少年のような顔つきになった。「あいつびびるだろうなあ」と言って笑っている。


 その顔を見ると、私も笑顔になった。