「っめ、茗子!」


 丁度トイレから出てくる茗子を見かけて声をかけると、驚いた顔をして私を見てから「なに?」と気まずそうに目をそらした。


「……あ、あの、ご、ごめん」

「意味、わかんないんだけど」


 茗子は苦笑をこぼしてから、なにも言わずに階段をのぼって、あまり人が通らない最上階の踊り場で壁にもたれかかった。

 私も茗子の隣に並んで同じように壁にもたれる。


「あのね、茗子」

「なに?」

「実は、私、昔、友だちに無視されたことがあったんだ……」


 ぽつりぽつりと話し始める私に、茗子はなにも言わなかった。


「きっかけは、些細な事だったんだけど……中学時代はずっと、ひとりだった。それで離れたこの学校に入って、茗子や貴美子たちと友だちになった」

「うん」

「だけど、もしかしたらまた、離れてしまうんじゃないかってずっと思ってた」


 昔のことを気にして私は、ずっと茗子たちを信じてなかったんだと思ったんだ。また同じようなことになったらどうしようって、どれだけを考えていた。

 でも、そうじゃなかった。
 茗子は私の話を聞いてくれた。
 貴美子は私と茗子を心配してくれていた。

 たとえそうじゃなかったとしても、私は……一緒にいる茗子たちと向かい合わなければいけなかったんだよね。

 私は電話をした後も、茗子に連絡を取らなくちゃいけなかった。なるようになるなんて、そんなふうに過ごすべきじゃなかった。


 それが、きっと茗子を苦しめた。


「そんなふうに、思っていてごめん」

「別に……そんなの、普通だし」

「みんなに、言わないでいてくれてありがとう」

「自分で、言うんでしょ?」


 意外な言葉を告げられて、一瞬固まってしまったけれど、「うん」と返事をして、そうだ、言わなくちゃなと思う。


「茗子は、すごいなあ」

「なにが? ほんともう輝意味わかんないんだけど!」

「あはは」


 ちょっと恥ずかしそうにして文句をいう茗子を見て笑ってしまう。
 茗子も少しだけ笑った。