どのくらいのあいだ、言葉を失っていただろう。
「来栖は、誰よりもいろんなことを知っていた」
それを、優しい声で壊したのは、鷲尾先輩だった。
「勉強は出来ないけれど、いろんな知識を持っていて、聞けばなんだって教えてくれた。七瀬くんは誰よりも機械について詳しいし、立森先輩は誰よりも優しい考え方をする。榊先輩は悪いことをちゃんと口にして伝えてくれる真っ直ぐな人で、柿本さんは人のことをすごくよく見てて、そっと手を差し伸べてくれるんだ」
ゆっくりと歩いて来栖先輩に近づいていく。
そっと肩に手を添えて、彼に微笑んで見せた。
「どうして……それじゃダメなんだろうな。誰にも迷惑をかけてないし、誰も傷つけてないはずなのに」
「わし、お」
「でも、……来栖のこの方法は、間違ってる。恥ずかしいことなんてしてない。間違ってることをしてない。だからこそ、最後まで、そんなことはしちゃいけない」
そう告げると、来栖先輩は顔をぐちゃぐちゃにして、鷲尾先輩の肩に顔を埋めた。そして、声をあげて、泣いた。吐き出すだけ吐き出した感情が、最後は涙になって身体から出て行く。
……本当に、間違っていたんだろうか。
火をつけようとしたことは間違っている。でも……彼の思いはなにも間違ってないと、思う。
この思いは一体、どこに行くんだろう。
吐き出したこの思いは、このまま空気の中に消えていくだけ?
あんなにも必死に、言葉にしたのに。
泣きながら、それでも声を発したのに。
「……ぼくたちも、間違っていたのかもしれない。反乱を起こして、みんなに知らしめてやろうなんて……元々無理があったんだ」
「——そんな、ことない!」
鷲尾先輩の言葉に、大声で叫んで反応した。
突然の声に先輩は驚いた顔をして私を見つめてくる。
「……そんな、ことない、です。そんなはず、ない」
ここに集まったみんなの気持ちは、本物だった。
みんないろんな思いを胸に潜めてて、それをどこかにぶつけなくちゃいけないと思っていたはず。私だってそうだ。
思いは一緒じゃない。
けれど、伝えたいという気持ちは、一緒のはず。