「おれたちは、順位が低いからだめなのか? そうじゃないだろ? いじめるほうが悪いに決まっているじゃないか」

「おれは……ただ、そうすれば少しでもバカないじめがなくなるんじゃないかと……思って」

「おれがいつ! いじめから逃げたいなんて言ったんだよ!」


 ——ガン、と机を叩く音が、深夜の教室に響き渡る。

 鼓膜を刺激するその音が、彼の胸の痛みのように聞こえて、私はただ、黙って声に耳を傾けるしかできない。

 いや、傾けるべきだと、思った。


 こんなにも悲痛な叫びを、私は、みんなは、聞き逃すべきじゃないんじゃないかって。それが正しいとか間違っているとかは関係ない。


 その判断は、今じゃない。


「嫌だったよ、いじめられるのなんて。空気みたいに無視されることも、バカにして影で笑われることも。でも……自分に恥じるようなことは、なにもしてない。」


 彼の声が震えだして、どんどん、聞き取りにくくなっていく。
 泣いてる。彼は泣いてる。


 泣きたくないのに、涙が溢れてしまったら、声が出なくなってしまうんだ。
 喉がぎゅうって締め付けられて、それをこじ開けると涙がなおさら出てきてしまうんだ。


 私はそれを知っている。
 だから、私は口を閉ざした。


 でも、目の前の彼は、それでも必死に思いを口にしようと言葉を探して涙と一緒に吐き出していく。


「おれは、恥ずかしい人間なのか? なあ。勉強や運動ができないことは、人として恥ずかしいのかよ。なにもできないことは、できるやつに比べて、悪いことなのか?」


 誰も、口を挟めなかった。
 会長も、なにも言わなかった。


「俺が恥じてないことを、恥ずかしいことにしているのは、お前らだ!」



 彼の叫びを最後に、教室は静寂に包まれた。