「まさかおれも、あれが本物だとは昨日まで思ってなかったけど……」
「なんで! こんな奴とおまえが一緒にいるんだよ! こいつに……おれはこいつのせいで……!」
「鷲尾は、渋ってたよ。オレらが無理やり、こいつを巻き込んだんだ。今思えばはじめから気づいてたんじゃねえの、鷲尾」
浜岸先輩が黙ったままでいる鷲尾先輩の代わりに口を開く。そう言われればそうだった。最後まで先輩はあまり乗り気じゃなかった。
でも、話始めたら一気に進んだのは、"彼だったら"という予測をしていたからなのかもしれない。現に、鷲尾先輩が言っていたように、この人は今日、想像していた時間に学校にやってきた。
浜岸先輩の問に、鷲尾先輩は苦笑を零してから「彼が学校を憎んでいたのは知ってるから、なんとなく」と答える。
「この方法は、間違ってると思うから、止めようと思った」
「うるさいっ! うるさいうるさい! おれの気持ちが分かるか!? おれはこいつに……この生徒会長に……『おれが悪い』って言われたんだ! なにも、なにもしてないのに。ただ、ひっそりと過ごしていただけなのに!」
どういう意味かはわからない。
でも、もしかすると……大和くんに言ったようなことと同じことを言ったのかもしれないと、思った。
「バカにされたって、空気みたいに扱われたって、虐められたってどうでもいい。勉強も運動もできなかったし、友達だって数えるほどしかいなかった。でも、おれは……それが惨めだとは思ってなかった」
「ちが……、おれがきみに言ったのは……!」
「そう、生徒会長がおれに言ったのは"いじめられないようにしなくちゃいけない”だったよな? 勉強をしろと、運動を頑張れと。してないって決めつけて、それができればいじめがなくなるって」
来栖先輩は、ぎゅっと両手の拳を握りしめて、会長を睨みつけていた。
「そんなもの、望んでないのに!」
「だから、来栖はここに火を放とうと、思った?」
「……鷲尾だって、同じ気持ちだっただろ? いつも、話していたじゃないか。順位表なんて見たくないって」
話しかけた鷲尾先輩に、彼は悲しげに微笑んでみせる。
そうだ、この部屋には……過去の順位表がある、と言っていた。元々、この部屋だけが、目的だったのか。