ひとりじゃなくてよかった。
そう思いながら彼に視線を向けると、いつから見ていたのか、大和くんの視線とぶつかった。
ぴくりと心臓が反応する。
「怖い?」
「……ちょっとだけ」
強がってみせると、大和くんがかすかに笑った気がした。
「——っこっち! 追いかけろ!」
下の階から声が聞こえてくると同時に、ドアが開く音、そして机になにかが当たる音が響いた。
私より先に大和くんが立ち上がり、非常階段ではなく、普通の階段を駆け下りていく。気が焦って脚がもつれて転けそうになった。
3階について廊下に出ると、蒔田先輩と榊先輩が立っているのが見えた。今日、荒らされていた指導室の前。
「捕まえた……!」
「っや、やめろっ! はなせ!」
中でもみ合っているのは浜岸先輩とさっき見かけた黒い人だろう。
ドアの前で戸惑っているふたりをかき分けて大和くんが教室に入っていく。
遅れて鷲尾先輩が私たちが降りてきた階段からやってきて「だ、大丈夫!?」と声をかけてきた。
無言でこくりと頷くと、鷲尾先輩は乱れた息を静かに整えながらゆっくりと歩いてきて、中に入る。
柿本さんも一緒にいたらしく、先輩に続いて中に入って教室の電気を点けた。
恐る恐る、私と、蒔田先輩たちも中を覗き込みながら進む。
そういえば騒がしさは収まっていた。
急に電気を付けられたからか、床に座っている黒い男が顔をしかめていた。真っ黒のTシャツにはフードがついていたらいく、かぶっていて顔はわからない。
そして、彼の肩を掴んで睨みつける浜岸先輩。
ふたりとも肩が上下に揺れている。激しく逃げまわり、追いかけたらしい。
すぐそばにいた大和くんが、しゃがみこんで黒い人のフードを脱がせた。
とても、気の弱そうな男の人だ。
目が細く、少し垂れ下がっている。長い真っ黒の髪の毛は少し癖がある。頬は少し、不健康な感じで痩けていた。
そして、目の前に立つ鷲尾先輩を見て目を見開いた。
「鷲尾……なんで、お前がこんな奴らと」
「……来栖(くるす)」