「あ」
「え?」
見つめ合っているとふと大和くんの視線が下に落ちて、同時に声を発した。それにつられて私も視線を下に向ける。
こそこそとあたりを見渡しながら歩く、ひとりの男の人。
黒いTシャツに、黒かグレーのパンツ。黒い手提げかばんも手にしている。
闇にまぎれるつもりだったのだろうけれど、靴だけが白色で余計に目立って見えた。
……あれは、どうみても。
無言で顔を見合わせて、人影の様子を探った。身体を小さくしてなるべく見つからないように。
あたりを見渡すように挙動不審な行動をとりながら、校舎のほうに近づいていく。昨日見つかったから随分警戒しているみたいだ。
「れ、連絡したほうがいいよね」
「俺誰もしらねえけど、お前知ってんの?」
ひそひそと話しながら、大和くんの言うように私も連絡先を知らないことに気づく。
……どうしよう。
また、誰か怪我してしまうかもしれないのに。
「たぶん、気づくだろ」
だといいけれど。
黒い人はそのまま奥に進み、階段のある方に進んでいく。どうやって中に入るつもりなのかはわからない。
「こっちにはこなさそうだな」
「う、うん」
そっと腰を上げて、音が出ないように非常階段のドアを開けてすり抜ける。
最後に確認するように黒い人を見ると、校舎の影に隠れてしまい、もう見えなかった。
「どこに行くつもりかわかんねーし、あんまり動きまわって見つかるのもまずいな」
「そう、だよね。暫くここで待機しとく?」
「そうするか。あー連絡先聞いときゃよかったな」
壁にもたれかかって、大和くんが舌打ちする。
まさか、本当に次の日の、私たちが予想した時間に来るなんて思ってなかった。
会長はここ、4階の突き当りの教室にいる。
報告だけでもしたほうがいいだろうかと思いながら、さっきの会話と大和くんの気持ちを考えると、会長の名前を出しにくい。
なんだか緊張して心拍数が跳ね上がってくるし。
さっきの、黒い人は一体、どんな人だろう……立森先輩や榊先輩に怪我を負わせたような人だから、すごい暴力的な人かもしれない。
弱気になっている自分に気づいて、慌てて頭を振った。
私が言い出したことなんだから、今更怖がっちゃいけない。