でも。
 たったひとつだけ、久くんに文句を言えるなら。

 どうして、大和くんと話をしなかったのか。
 どうして、彼をひとりにしたのか。
 どうして、彼の心を、置いてけぼりにしたのか。

 そう言ってやりたい。
 彼はずっと、傷跡を残したまま、この学校でたったひとり戦い続けた。


「もっとあいつと、話せばよかった……」


 そう呟いて、すぐに「俺のせいか」と言った。


「当時の俺だったら、多分、そんなの聞く耳持たなかっただろうなあ……」


 苦笑交じりにそう言って、はあっと、空に息を吐き出す。
 少し間を開けてから振り返った彼の目は、赤く充血していた。


「あいつは、つらい気持ちで転校したわけじゃねえんだな」

「……うん」

「だったら、よかった」


 よかった、と言える大和くんは、すごいな。それだけ久くんのことを大事な友達だと思っていたんだってわかる。


「っていうかなんでお前が泣いてんの?」

「だ、だって……! わ!」


 ぷっと吹き出して笑われて慌てて涙をこすろうとすると、彼の手が私の頬に触れた。

 ぐいっとちょっと乱暴に目尻を親指でこするように私の涙を拭う。


「ありがと、教えてくれて」


 ぽんぽんっと私の頭を軽く2回叩いてにっこりと微笑まれた。
 暖かくて優しい微笑みを見たら、さっきとは違う意味で涙が溢れそうになる。

 悲しいとか辛いとかじゃなくて。
 なんか胸がぎゅうーって、締め付けられる。苦しいのに、心地いいような、そんな感じ。

 私はなにもしてないよ。
 だけど、あのとき、彼に出会って、よかった。
 ほんの少しでも、大和くんの気持ちに寄り添うことができたから。