「友達は、久くんは、逃げたわけじゃないよ。大和くんを、邪魔だとも迷惑だとも思ってなかった」

「で、も」

「私のことを、友達のようだと言ってくれた。強いねって。君みたいになりたいから、ぼくも戦うんだって」


 間違いなく彼はそう言っていた。
 弱そうな男の子だったけれど、その目は強くて、決意が表れてた。


——『守ってもらえるのは嬉しい、けど、僕を守ることで友達まで悪く言われるのは、嫌なんだ』

——『きみみたいになりたい。きみや友達のように』

——『同じことは出来ないけど、ぼくにも、ぼくのやり方で、できることがきっとあるよね』


 そんなふうに言っていたあの子が、”もうぼくに関わるのはやめてくれ”なんて、本心で言っていたなんて私には思えない。


「久くんを守るようになってから、大和くんも、目をつけられるようになったんでしょ?」

「……あんなの、どうってことねーよ」

「でも、久くんは、大和くんを、守ろうとしたんだ。そのために、転校した。でも、素直に言えばきっと大和くんは悲しむってわかってたんだよ。もしかすると、決意が揺らいじゃうかもって思ったかも」

「なん、だ、それ」

「久くんは……逃げたかもしれない。でも、逃げるという戦う方法を見つけたんだって、私は思う」


 だってあのときの彼には、逃げるなんて言葉は似合わない。

 逃げることが負けることじゃない。
 ただ、立ち向かうだけが戦う術じゃない。

 そう思うと、私が逃げ出したと思っていたことも、間違っていなかったんじゃないかとすら思えてくる。
 さすがにそれは……自分勝手な解釈かな。

 だけど。
 あの久くんならきっと……大和くんに嫌われるのを覚悟でひどいことを口にして、守ろうとした彼なら、今の私を見たら『仕方ない』じゃなくて『すごいね』って、言ってくれるんじゃないだろうか。


 逃げ出さなければ私は今、先輩達と一緒になにかをしようなんてきっと思わなかった。


 今初めて、そんなふうに思う。
 

「俺みたいになりたいとか……バカじゃねえの」


 大和くんの声は震えていた。

 それを聞いて涙がぽろぽろとこぼれてしまったけれど、手で拭ったら泣いていることを知られてしまいそうだから唇を噛んで必死に涙を止めようとした。