「なにもできなかった。やったこと全部裏目に出て、迷惑かけて悪化させて、あげくあいつを追い詰めた。おまけに……なにもなかったことにされたことに腹が立って学校で暴れて」


 空に吐き出す言葉が、暗闇に吸い込まれて、そして、空から大和くんの気持ちが降ってくるみたいだ。
 胸が痛くて、喉がぎゅうっと締め付けられて苦しい。


「俺が悪い、でも、俺は悪くない。俺のせいでもいい。でも、俺のせいじゃない」


 大和くんが誰になんと言われようと黙って、ひとりでこの学校の制服を身に纏い戦い続けたのは……久くんへの償いのようなものだったのかもしれない。

 それでいい。
 だけどよくない。

 私の抱えている気持ちも、どこかで一緒だ。
 

「俺は、センパイらみたいに、誰かに伝えたいことがあるわけじゃねえんだよな。俺はただ、どこかで自分が悪くないっていう意地を、突き通したかっただけだ」

「……大和くんは、悪くないよ」


 多分。ううん、絶対に。
 だって、私は知っているもの。

 大和くんは"なんで?"と言いたげに眉をひそめた。


「私が……ずっと前に虐められている男の子に会った話、さっきしたでしょ? 彼が言ってた。『守ってくれた友達がいる。彼みたいに強くなりたいから、彼に守られているわけにはいかない』って」

「それは……そいつの話だろ」

「その子の名前、久くん、だった。久しいの、久」


 名前を聞くまで、まさか一緒の人だなんて思わなかった。

 だけど、きっと一緒の人だ。時期も一緒だし、名前も一緒。小柄で、かわいい顔をした男の子だった。

 同い年とは思ってなかったけれど、よく考えればあんなしっかりした年下なんてなかなかいない。

 私の言葉に、大和くんは目を見開いていて、驚いた顔をした。


 きみみたいになりたいと、言ってくれた。
 強いんだね、と。


 その言葉が、笑顔が、私の背筋をいつも伸ばしてくれていた。いじめられたって、みんなに誤解されたって。

 逃げ出したあとでも、彼の言葉があったから、私は自分を責めることが出来た。

 嫌なことを嫌だと思えるのは、以前の私をかっこいいと、そう言っていくれた人がいたからだ。
 それが辛かったけれど、それをなくすことはしたくなかった。