「自分でもわかってんだろ? なのになんで、ここにいるんだよお前。止めるためか?」

「……わかりたいと、思ったんだよ、これでも。学校っていう世界の中で、みんなが考えていることを知りたいって」


 少し考えてから、会長は視線を床に落として答える。
 その後でちらりと私を見た。


「ごめんね。きついこと言うつもりじゃなかったんだけど」


 そう言われて、どう反応すればいいのか私にはわからない。

 謝られたからといって、じゃあ私の気持ちをわかってくれたのかといえばそうじゃないのは明らかだ。

 だからって、この言葉を否定するほどの強さも意地も、自信もない。


「邪魔するなよ」

「そんなことしないよ」


 どーだかな、と小さく悪態をついてから、大和くんは「行こう」と私に目を合せた。
 どこに?という疑問を口にするまもなく、教室から出て行く彼を慌てて追いかける。

 いつもより早足で歩くからか、私は小走りになった。
 大和くんはまるで、逃げるみたいに、ずんずんと進んでいく。

 声をかけるのもためらわれて、ただ一生懸命彼の背中を追いかけた。

 ピタリと足が止められて、非常階段のドアを開ける。
 もしかして卓球部の部室に行くんだろうか。

 そう思ったけれど、下を覗き込むようにして柵に体重を預けて動かなくなった。
 そっと隣に並んで、同じように下を見る。


「俺は、なんのためにあの放送を聞いて……放送部に行ったんだろーな」


 顔を上げて、ため息を吐き出すように言う。

 なんて返事をすればいいのかわからなくて黙っていると「むしゃくしゃしてただけなんだよな」と自分で答えを口にした。


「あいつの、久(ひさし)のことで、すっきりしない気持ちがずっと残ってた」

「ひ、さし?」

「この前話した、友達。友達って言っていいのかわかんねーけど」


 くるりと身体の向きを変えて、柵にもたれかかりながら空を仰ぐ。
 星の見えない黒い空は、見ていると吸い込まれてしまいそうな気がした。